第52話 しろろん

新幹線が東京駅に到着し、東京セカンドを果たす。


かっこよく言ってるけれど、ただ東京に来たのが2回目と言うだけ。

ただ大阪も都会だけど、東京はもっと都会で少し不思議な気分。


新幹線を降りるとそのまま東京環状線のホームへと向かう。緑色と水色の電車が交互に長い電車が出発していく。


前回は驚いたけれど、今度は驚かない。

流石に一度経験するとなれる。


「アンジェリーナさん、一応先方に連絡はしているのですが、急な仕事が入って少し予定が遅れるそうです。」


志帆はスマホを操作しながら歩いている。


「そう。なら少し時間ができそうね。...志帆、確か待ち合わせは東京ダンジョンよね? 確か秋葉原入り口であったるわよね?」


アンジェリーナは志帆に確認する。


「はい、あっています。確かギャンブルがあった場所ですね。」

「あー、ダンジョン装備を持って来なかったのが悔やまれるわ。」


アンジェリーナは本当に残念そうだ。


「だから言っただろう?装備は持っていった方がいいって。」


真斗が少し愚痴る。そこに志帆が乗っかる。


「真斗、武器を持って乗り込むのは流石によくないと話しましたよね?」

「でもさ、せっかく世界一大きなダンジョンに来たんだぜ?攻略したくなるのが普通だと思うんだけど。」

「だそうですよ、松ちゃんはどう思いますか?」


俺に振らないでほしい。


「別にそんなこともないかな。今回は話し合いに来たんだし。」


俺はなるべく大人の返事を心がける。

しかし、ガソリンを投下したのはアンジェリーナだった。


「...そうね、でも何もしないのも少し勿体無いわね。

せっかくたから東京見物する?私免許持ってるし、レンタカー借りれば疲れて話合いに支障とかはでないわよ。」


俺はブンブン頭を横に振った。俺はアンジェリーナの運転の実力をちゃんと知っている。


「東京観光にはいいかもしれませんね。」

少しワクワクしたような顔で志帆が言う。


「アンジェリーナ、車はやめよう、本当に。」

あの恐怖はもう味わいたくない。


志帆はあの日のアンジェリーナの運転する車に乗っていない。

だけど俺の必死な顔を見て気付く。そして志帆はアンジェリーナに聞こえないように耳元で言った。


「松ちゃん、アンジェリーナさんの運転って...」

「イニシャルE....」

「よくわかりました...。」


うん。わかってくれてよかった。


「アンジェリーナさん、先方の用事が早く終わる可能性があるので、そのまま秋葉原待機の方がいいと思われます。」


グッジョブ志帆。


結局俺たちはそのまま緑色の東京環状線で秋葉原を目指す。

いつも詰め込まれるほどの人がいるイメージの東京環状線だけれど、今日は別にそこまで酷くはなかった。



「相変わらずですね...ここは。」


もはや世界でも認識され始めている日本のオタクの街秋葉原。


駅を出て突き当たりを左に曲がると、大通りに出てくる。

今日は歩行者天国の日ではないらしく、車がどんどん通っていく。たまに痛車がアニメの音楽を大音量で流して走っていくところが秋葉原らしい。


そして今回の目的地、秋葉原のアニエイト。

前かよりもカオスが増していて、もはやギャンブルがあることを隠す気はないらしい。堂々とトロッコ乗り場には“闘技場行き♡楽しく賭けよう”と書かれている。


「流石東京ダンジョンですね。やることが派手です。」

志帆は多少東京ダンジョンをライバル視しているところがあるみたいで、そういうところはしっかりと見ている。

やっぱり大阪ダンジョンスキル持ちはそういうところしっかりと考えている。


「たしかにそうよね。日本円で賭け事をしていない以上、なかなか取り締まりにくいのかもしれないわ。それに金貨も銀貨も銅貨もゲームセンターにあるメダルと同じと考えれば、なかなか賭博とは考えにくいし。

それにキーポイントは東京ダンジョンは金貨とかを現金に両替したり、日本円を金貨にしていないことね。」

「すぐ隣でアニエイトがガンガン両替してますけどね。国営のダンジョン通貨買取場も近くにあるので、もうほとんど見て見ぬフリですね。」

アンジェリーナの見解に、志帆がこたえる。


「制度的にはパチンコの3店システムよりもクリーンなシステムですから、これを取り締まったら日本全国のパチンコ店を取り締まらないといけなくなりますね。私もやってみたいですが、敷地的問題や人員問題があって、なかなかハードルが高いです。」


相変わらず粗末なトロッコに満員乗車して俺たちは闘技場へと向かう。


そして闘技場の入り口ゲートで銀貨1枚(百円くらい)を払って入場。前回は案内のパンフレットが出てきたけれど、今回は出てこなかった。


前回よりも人が多くなっていて、案内掲示版の大きさが大きくなっている。


そして新たに“予想屋”という幟旗(お店の前の道に置かれている縦型の広告用の旗)を背負った人が今日の賭けについて書かれた紙を売っている。


さらには“情報屋”と言われる今まで出場した人はモンスターの結果をまとめた雑誌を売ってる人まで。


「...ここは日本の外ね、完全に。」

「そうですね....無法地帯です。」

「たしかにここだけ日本じゃないな。」

アンジェリーナ、志帆、真斗は、この異様でカオスな光景に当てられていた。


完全に無法地下繁華街化していて、露店屋台が並んでるエリアが出来ていたり、何故かカプセルホテルがあったり。


酒、賭け事、食い物、寝床

これだけカオスなのに、18禁な“あはぁ〜ん”な店だけは無い。

そして何故か無法地帯なのに交番がある。


健全なのか不健全なのか...


「とりあえず、大闘技場に行くか。」

俺は動かない3人の背中を押した。


 ◇


大闘技場に入るとちょうど試合の真っ最中で五月蝿いほどの声援が観客席を賑わせていた。立ち見が出ているほどの人気度で、次々といろんな入り口から人が入ってくる。

目の前にはドラゴンvsドラゴンの試合が行われている。


1体はふつうのドラゴン、もう1体は水色のドラゴン。

空中でオレンジ色の炎のブレスと氷の白い氷のブレスが交互に飛んだり、ぶつかったりして迫力がある。


そして空中を縦横無尽にUFOのように実況台が闘技場を飛び回る。


今日もキレッキレの実況で会場を盛り上げている。ただ時々気になるワードがあって、時々「グッチー」というワードを実況が言っている。


俺の中でグッチといえば芸人俳優グッチーを思い浮かべるのだけれど、目の前の闘技場で戦ってるのはドラゴン2体。


俺が頭の上に疑問符を浮かべていると、その疑問を真斗の何気ない一言が解決した。


「俺以外でドラゴンスキル持ってる人、初めて見た。」


え?


俺はもう一度闘技場を見る。ドラゴン...スキル....。


もしかしてドラゴンのどちらかがグッチー?


よくよくみるとテレビカメラが観客席に何台も入っていて、ずっとドラゴン同士の戦いを撮っている。


「まぁ真斗、どっちがグッチーななんだ?」

「アイスドラゴンの方。俺よりも戦い方が下手だけど、見せ方が上手い。」


真斗は試合に釘つけになっている。


アイスドラゴンは大きく翼を広げ宙返りをし、そのまま地面にむけて急降下しながらドラゴンに氷の白いブレスを吐く。ドラゴンは直撃を避けるけれど、首付近を掠めて少し白くなり、地面が真っ白に凍結する。

ドラゴンが空に舞い上がると、霜が空中に待ってキラキラと綺麗な微細な氷が付近に飛び散り、ドラゴンの翼が空気を巻き上げて地面から氷が舞い上がる。


ドラゴンは地面スレスレの状態からオレンジ色の炎ブレスを吐き、それが闘技場の観客席へと飛んでいく。

観客席は大きな悲鳴をあげるけれど、観客席に届く直前で透明のバリアがそのブレスを受け止める。


多分ドラゴンからすれば観客席の声援も鬱陶しいのだろう。


ドラゴン同士の戦いは中々決着がつかない。俺たちがこの会場にきて1時間経っているけれど、お互い軽い傷程度で決着が着きそうではない。


そう考えると、真斗とドラゴンが戦った時は長く感じたけれど意外と短期決戦だったのかもしれない。


俺以外の3人はこの2体のドラゴン同士の戦いに魅入られている。俺はこんなに競り合う激しい戦いなのに、何故かあまり湧き立たない。


どうやら俺は前回の北太平洋浮島で実際の実践をしたせいで戦いに慣れ始めているみたいだ。

少し思い出すだけでも、北太平洋浮島と今は無き南太平洋浮島のお互いに戦いは興奮する。飛び交う光線が今でも恐怖と震えが込み上げる。でもそれと同時に何かはわからないゾクゾクしたものが身体中から湧き上がる。多分アドレナリンが体を巡るという感覚。


俺はあの戦いが次元を超えたものだったからこそ、今の戦いがすごいけれど一日離れた距離で見れているのかもしれない。


女性の声特有の少し高めの遠くまで響く声が闘技場会場の観客席に響く。


「さぁ....今日何回目になるでしょう。グッチーが大きく距離をとり、空を取る...。そして....出ましたアイスブレス。芸人とは思えないハイレベルな戦い。私もなんどもVSドラゴン戦を実況してきましたが、これほど白熱した戦いは半年ぶりです...。流石に何度も同じパターンで攻撃しては空飛ぶトカゲでも覚える、簡単に避ける。そしてドラゴンの本気、竜弾きました!!」


空を自由に飛び回る実況台、そこには猫耳に尻尾付き短パンを履いている女の子が一生懸命に実況のために必死に口をパクパクと動かしている。


グッチーのアイスドラゴンがモロに竜弾の攻撃を受ける。


「うぁ...あれは痛いぞ....。」

多分この場で一番グッチーの気持ちがわかってるのは真斗に違いない。


まだまだ続きそうな試合を見て俺は飽きてしまってアンジェリーナに一声かけて観客席を出た。


「チャンーー、一体どうしたのよ。」

「ごめん、ちょっと人の熱に当てられてね。」

「そうだったのね。急に外に行くって言われたからびっくりしたわ。」

「ごめんごめん。」


俺とアンジェリーナは2人で露店エリアへと歩いていく。少しデートみたい。


いや、デートだな。


俺は少し恥ずかしかったけど、ゆっくりとアンジェリーナの手をとってアンジェリーナの指と指の間に俺の指を入れていく。


アンジェリーナは少し驚いた顔をしたけれど、すぐに嬉しそうにしてくれた。


俺は闘技場よりもアンジェリーナのデートの方がいいかもしれない。そう思った。


1時間くらい、ずっと手を繋いでベンチに座っていた。キスもなかった。だけど何故かそのまま並んで座っていた。


.

.

.


大闘技場からゾクゾクと人が出てくる。一体何人いるのかもはやわからないレベルの人の量。

その人の数にびっくりしているとアンジェリーナのスマホがなり始めた。


アンジェリーナは手早く手を繋いでない方の手でスマホを耳に当てる。相手は志帆みたいだった。


「アンジェリーナさん、今相手と連絡が取れました。向こうもどうやら東京ダンジョンの闘技場に到着したみたいです。

 気がついたらアンジェリーナさんも松ちゃんも居なくなってたんですけど、今どこですか?」


志帆と真斗に俺たちは合流した。そして志帆は俺とアンジェリーナが恋人繋ぐをしていることに気がつく。


「すいません、お邪魔しました。ごゆっくり。」

志帆はそのままUターンをしようとしたところを俺は慌てて読めた。


 ◇


「一応向こうとは連絡はついてるんですが、少し引っかかることが...」

志帆がアンジェリーナにスマホの画面を見せる。


「うーん、たしかにちょっと気になるわね。向こうは1人って言ってたのに、急に迎えを出すって言うのが。」

アンジェリーナは首を傾げる。


「ここまで来ましたが帰ります?」

志帆はそう言いながらスマホを操作する。


「迷うわね。正直帰るのも悪くない手なのよ。相手がダンジョンスキル持ち一人だったら何とかなることでも、強力なスキル持ち一人増えるだけでこっちの優位性が減るのよね。」

「なら約束が違うから帰ると返信しますか?」

「それも迷うによね、もしも向こうがなんらかの方法で私たちの情報を得ていたら、私たちは完全に情報を取られるだけだわ。....とりあえず今回は相手の指示に従った方がよさそうね。」

「わかりました。では待ち合わせ場所に行きましょう。」


アンジェリーナと方針の相談をした志帆は、先導して進み始める。約束の場所はさっきまでいた大闘技場の係員用入り口のようで、そこで案内スタッフを待たせているらしい。


「やっぱり別の人が迎えにくるにはちょっと引っかかるわね....」

アンジェリーナはそう言いつつも歩き始める。


さっきの大闘技場の係員用入口の前にはさっきまで実況をしていた猫耳の女の子が立っていた。


猫耳の女の子は俺たちを見て少し驚いた後、すぐにそれを取り繕う。


「待っていたニャン、一応聞くけれど大阪ダンジョンの関係者ニャン?」

俺たち4人は頷くと、係員用入口の扉を開けられる。


「案内するニャン。おまちかねニャン。」

猫耳さんはそう言って大闘技場の裏側に案内された。


大闘技場の裏はスタッフさんの休憩室みたいで、今は誰もいなけれど着替えや衣装、猫耳カチューシャが何個か置かれている。俺たちは猫耳さんの案内でさらに奥に進んでいく。


そして何もない壁の前に着くと猫耳さんが壁に手をかざす。すると何もない壁に扉が浮き上がった。中は普通の家のリビングで、ソファーやキッチンテーブルがある。普通の家との違いは窓がないくらい。


「ここがプライベートルームにゃ。土足でいいにゃ。とりあえず入るにゃ。」


俺たちは言われるがままに入る。


猫耳さんは俺たちが入るとそのまま扉を閉めてしまう。


「まずは来てくれてありがとにゃん。顔を隠さずにくるとは思わなくてびっくりしたにゃん。

私はお願いする立場だったので隠さなかったけれど、まさか大阪ダンジョン側も顔を隠さないでくるとは思わななかったにゃん。」


猫耳さんはニコッとしながら言った。


「私が東京ダンジョンスキル持ちにゃ。しろろんは昔顔を隠してたけど一回会ってるにゃ。だけど他のみんなは初めましてにゃ。よろしくにゃ。」

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スキル:浮遊都市 がチートすぎて使えない。 赤木咲夜 @AKS

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