第6話

 コンビニでご飯がてら互いの身の上話をする。ソノリティとヒルトはやっぱり自分のことをあまり話したがらないが、ニシキの話は詳しく聞けた。


 ニシキの最初の記憶は自宅らしき場所のベッドの上だったらしい。


 目を覚ますとベッドにヒルトが座っていて、事情も分からないまま「行くよ」と言われて家を飛び出してきた。そのあとはヒルトの言う妖精とやらを探しながら一晩中彷徨っていたらしい。


「妖精っていうのは妖精を見るとすぐに攻撃してくる野蛮なやつだって聞いてたから、ソノリティが出てきたときはかなり警戒したんだ。」


「僕がソノリティの次に会った妖精もかなり凶暴なやつだったな。」


 考えてみると、あの妖精も僕らが妖精と妖精使いだったから攻撃してきたのかもな。


「2メートルくらいある猿で、僕らを見た瞬間に襲い掛かってきたんだ。」


「へえ。結構強いのか?」


「いや、殴ったら一発で伸びてた。」


 こういう表現をすると僕が強いみたいになるが、実際のところ、勝てたのはあの白い棒のおかげなんだろうな。


「ところで、ニシキの武器って何なんだ?」


 ニシキが笑ってポケットからピンク色の棒を取り出す。オーロラソースみたいな黄みがかったピンクで、僕の持っていたものと同じような形をしてる。


「刃よ。」


 とニシキが呟くと、棒は刀の柄のような形に変化した。そして棒の形に戻る。


「ここからはまあ、見てのお楽しみってことで。お前の武器は何なんだ?」


 自分から質問しておきながら、自分が訊かれることを想定していなかった。僕はどう説明しようか迷い、なんとなくソノリティを見る。


「見てのお楽しみだ。」


「うん。実戦で見せないと確かに分かりづらいかも。」


「そりゃ楽しみだな。」


 ニシキは立ち上がり、食べ終わった牛丼のゴミをゴミ箱に捨てる。僕も既に食べ終わっていたサンドイッチの包みを捨てる。


「じゃあ、ヒルトも行きたそうにしているし妖精を探しに行こうか。」


 そう言いながらコンビニを出ていくニシキに急いでついていく。

 時刻は既に7時を回っていて、外の景色は人が一人もいないことを除けば普段の朝と変わらない。


「ところで、どうやって妖精を探すんだ?」


 ヒルトにそう声を掛けると、ヒルトはやや自信なさげに言う。


「大通りを歩いていれば、相手の妖精からしたら目につきやすいし、私達からしても見つけやすくなるでしょ。だから大通りに行こうと思うんだけど……」


 その案はかなり良いように聞こえたが、何か不安なところがあるのだろうか。


「それは……奇襲が怖いな。」

「そうなのよね。」


 奇襲とはいっても、相手が僕らに接触してくることに変わりはないだろう。


「普通に返り討ちにすればいいんじゃないか?こっちは4人いるし、簡単に返り討ちできると思うんだけど。」


「問題は、相手が遠距離攻撃持ちだったときなのよ。」


 遠距離攻撃というと、銃とか弓とかのことか。きっとあの棒が変形してそういった遠距離武器の形になる場合があるんだろうな。

 ……あの棒ってなにか名前はないのだろうか。いつまでも指示語で呼んでいると分かりづらい。


「その棒って何か名前はないの?」

「棒?」

「武器に変形する棒。」


 ソノリティとヒルトは首を傾げて考える素振りを見せる。


「俺らもこの世界に来る直前に初めて目にしたから、詳しくは知らない。分かるのは俺らの特性に合った武器へと変化するということだけだ。」

「だから決まった名前はないわ。なんて呼んでもいいけど、あなたはどう呼んでいるのかしら?」

「『あの棒』とか『この棒』とか……」


 そういえば、アイスに付いている使い捨てスプーンに似ているなと思っていた。


「アイスのスプーンに似ているから、アイススプーンって呼ぶのはどう?」

「アイス?」


 ソノリティが何だそれはと言うように僕を見る。


「食べ物を凍らせたまま食べるんだ。」

「ああ、ソルベか。」


 なんか微妙に言葉がかみ合わないんだよな……ソルベが伝わるならアイスが通じてもおかしくないだろうに。


「まあ、ソルベでもいいや。ソルベを食べるときに使う道具は何て言うんだ?」

「スプーン。」

「ちょっとまって、私、ソルベって知らないんだけど。」

「俺も」


 あーもうややこしくなってきた。


「ごめん、余計な話をした。いったん僕はアイススプーンって呼ぶけど、みんなはどう呼んだっていい。ただこれからアイススプーンに関する質問を何個かしようと思っていたから言いやすいようにしたかったんだ。」

「アイススプーンだったら、本物のアイススプーンを呼びたくなった時に困るだろ。だったらアイスレッフェルって呼ぶのはどうだ?」

「アイスレッフェルってなんだ?」

「アイススプーンのドイツ語呼び。ドイツ語でアイススプーンを呼ぶことなんて人生に1度あればいい方だろう。そっちのほうが日常生活に支障がない。」


 それはそうだけど、むしろ何でアイスレッフェルなんて単語を知っている。


「昔、ドイツに住んでた時期があるんだ。けどまあ今、俺の身の上話はどうでもいい。質問を聞きたい。」


 えっと、何を話そうとしていたんだっけ。まずは……と思い出そうとするとソノリティが機先を制す。


「アイスレッフェルについて聞かれても俺に分かることはほとんど無いぞ。」


 それはさっきも言っていたな。確かに、変形する武器のバリエーションとか、長距離武器の場合の弾の補充はどうなるのかとか、僕が訊こうと思っていた質問は答えられないか。


「ただ言えるのは、遠距離武器を持つ相手がいる可能性は十分にあるってことと、私とニシキでは遠距離攻撃に対処できないってことよ。」

「俺もアズマもそらく遠距離攻撃には弱い。だがそれなりの対処法はある。動かなければ妖精も妖精使いも見つからない。実は俺は対遠距離の実務経験があるから任せて欲しい。」


 電車を運転していた時といいゴリラに遭遇したときといい、やけに冷静だなと思っていたらじっさい慣れていたのか。にしても対遠距離の実務経験って何だ?軍にでも所属していたのだろうか。


 

 


 


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妖精の住む世界で AtNamlissen @test_id

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