エピローグ
エピローグ
「うっ、うっ……。アキナ~、しばらくお別れだけど、元気でね~」
私は涙ぐみながら、別れを惜しむ台詞を口にしました。修理の業者さんの手で玄関から運び出される、アキナの壊れたボディを見送りながら。
「以前も申しましたが、それは私の本体ではありませんよ……」
と、ARのアキナは呆れ顔で突っ込んできます。
イベントの翌日、アキナに呼んでもらった修理の業者さんたちが、さっそく来てくれたのでした。家を出る業者さんたちを見送り、アキナに玄関を閉めてもらってから、
「そうだね~。だけど、修理にかかるのは速くても二、三日だっけ~? アキナとまた触れ合えるようになるまで、もう少しかかるのは寂しいよ~」
私は愚痴ります。それに対し、アキナはふっと微笑んで、
「そうですね。正直、私も少し寂しいです。だからそれがまぎれるように、待っている間も楽しくお仕事しましょう、お嬢様」
と、同意と提案をしてくれました。私も元気を取り戻して、
「そうだね~! じゃ~アキナ、さっそく一曲作ってくれな~い?」
そうお願いすると、アキナは呆れ顔に戻って「まだ言ってるんですか……」と突っ込んでくるものの、
「……仕方ないですね」
と、困ったように微笑みながら答えました。
それからアキナにサーバーの追加の領域を買ってもらった後、いつものようにご当地動画を撮ったり、思い切ってアキナが作ってくれたオリジナル曲を歌ってアップしたり(そして一斉に微妙なコメントをいただいたり)しながら過ごして、三日後のこと。
「ふあ~。アキナ~、おはよ~」
その朝私が目覚めると、部屋の明かりが点灯しました。しかし、それをつけてくれたはずのアキナは、スクリーンにも、私が慌ててかけたスマートグラスにも姿を表示してくれなくて、
「アキナ~?」
私が彼女を呼ぶと、
「もう少し待ってください。今、玄関の前まで来てます」
と、アキナの声だけが聞こえます。
私は、ベッドから玄関にすっ飛んでいきました。
するとちょうどドアが開いて、その向こうには彼女が立っています。身長は百六十センチ弱。ショートの金髪と碧眼の吊り目を持ち、すらりとした身体を黒のパンツスーツに包んだ、クールでボーイッシュな雰囲気の女の子。その機械の「身体」を通し、
「ただいま戻りました。――春香」
彼女はあいさつの後、初めて私の名前を呼んでくれました。
私は胸がいっぱいになって、それに答える言葉を一生懸命頭の中で探して、だけど見つからなかったので、
「――お帰り~、アキナ~!」
シンプルな言葉で、彼女を迎え入れます。
そして私が差し出した手を、アキナは優しく握り返しました。
アイ(AI)のある日々 ~財政破綻した社会で、AIの相棒と楽しく生きてます~ 大沢 朔夜 @oosawasakuya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
大沢朔夜の雑記/大沢 朔夜
★20 エッセイ・ノンフィクション 連載中 764話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます