第6話 蒼炎の火黙(第3級の咎人)
扉を開けると、木々に囲まれた石の階段が下へ下へと続いている
木が覆い茂っているせいで先は見えないが、予想以上になんの変哲もない普通の山道といってもよい
桜華はその一本道を下っていく
「ところでお付き様は何用で下へ降りられるのですか?」
「うむ、本来そこに紛れてはいけない者が紛れ込んだ、その回収だ」
「それは人ですか?」
「そうじゃな、人なのだが、もう1つ懸念があってな、川の主が怒っているようでな、なにか関係があるかと思ってそれも見に行こうかと思っておる」
「なるほど、人探しと原因調査か」
「私が行けばちょちょいのちょいで終わるのじゃが、それでは面白くない、お主と一緒にいけばなにか楽しいことが起きるではと思ってな」
「そういうものなのでしょうか」
「期待しておるぞ」
話をしているとやがて、階段の終焉が見え、降り切るとススキ野原が広がっていた
「やっと終わりか・・・さてとここからどの方角へ向かうのでしょうか?」
「そうじゃな、それよりあまり考えている時間はないようだな」
その言葉通りに何者かが動いている姿を捕える
「なるほど早速洗礼といったところでしょうか」
相手もこちらに気付いたようだ
「刀を持った浪人か、目は無く口から青い炎が漏れている辺りは人では無いとお見受けした」
「蒼炎の火黙か、第3級の咎人か、こやつはたしかもっと下の方にいるはずじゃが・・・」
「向こうはやる気満々なようだな」
蒼炎の火黙は桜華を見るやに周囲の音も立てずに静かに襲い掛かってくる、その速度はおおよそ人の走る速さを超えている
「は、はやい・・・が、反応できない速さではない・・・」
蒼炎の火黙が振りかぶった刀は桜華を上段から襲う、それを躱すは間に合わないと判断した桜華は刀で受け止めた
「お、重いな・・・しかし」
桜華は蒼炎の火黙の刀を受け止めたが、重い斬撃で片膝を付くまで持って行かれそうになるが、自分より体格の良い師匠や兄弟子の重い打ち込みを思いだす
だが、お付き様によって強化された刀は想像を超えていた
お互い力の押し合いになるかと思いきや、桜華の刀が蒼炎の火黙の持つ刀を熱で溶かしだした。
「これはいかんな」
仮に刀を焼き切ったとしてもそのまま短くなった刀で切られかねない、蒼炎の火黙も力を緩めようとせず、そのまま切り付けるつもりなのだろう
桜華はそのまま押し返すと見せかけ横に軽やかに身を躱す、蒼炎の火黙の刀は躱された事で地に向かい空を切るがすでに桜華の刀は蒼炎の火黙の両腕を切り落としていた
しかしながら人であるならそこで終わったかもしれないが、蒼炎の火黙は人ならざる存在、腕は切り落とされたがその部分からは赤い血が流れるのではなく青い炎をがあふれ出る
青い炎をやがて桜華に纏わり付いて行く、刀で振り剥がそうとしても炎を切ることができない、不思議とこの青い炎は熱くはない
"赤い炎は肉体を焼き、青い炎を精神を焼く"
桜華の目の前に兄弟子の躯が立っていた
「躯・・・?、きさまなぜここに」
「桜華よ、お前さえいなければ俺は正当な継承者として真っ当な人生を歩むことができた、お前の存在は師も後悔していた」
「それは貴様の勝手な思い込みだ」
「果たしてそうと言い切れるか、貴様も心辺りがあるのでないか?」
その言葉に桜華は死ぬ間際の師匠と躯の姿を思い出す
《なぜ師匠は私でななく躯と一緒に・・・・》
「そうだ死後は貴様ではなく俺を選んだ、それが答えだ」
「し、師匠・・・」
「口には出さなかったが師は悩んでいたのだ、貴様を1人前の女として認識し始めた頃から決めていたのさ、貴様に子を産ませ正当な継承者を産ませる事をな」
「な、師を侮辱するつもりか!」
「こやつの話を聞いてはならぬ」
桜華の背後から声が聞こえ思わず振り向いた
「お、お奉行・・・なぜここに」
「桜華よお主がワシの元へ来たのは友であるお主の師の頼みでもあったからじゃ、お主をその躯と同じ道を歩まぬようにな」
「それでは師匠はやはり・・・」
「うむ、あ奴は昔から不器用で女子の扱いにも少々難があってな、とてもじゃないがお主に子を産ませるなど到底考えられぬ、安心せい」
「ははははは、それが貴様の心のよりどころの1つか、貴様の記憶から焼き尽くしてくれるわ」
躯が青い炎に焼かれ姿を変えていき、やがて狐の様な形となる
「桜華よ、こやつが本体ぞ」
「しかし、お奉行、相手は炎、私に切ることができましょうか?」
「そうじゃな、達人と呼ばれる者は自然を切るとも言われておる、その中には水や炎も含まれておる、お主はすでにその域に達しているのではないのかな?」
「ご冗談を」
「そうかな、今お主は体の重さを感じておるか?」
「体の重さ・・・、そいえば・・・」
「心を無にし、刀に心を預けるのじゃ、さすれば刀はお主に答えてくれよう」
「心を無にし、刀に心を預ける・・・・」
その言葉に桜華は目を閉じ静かに構える
蒼炎の火黙は桜華の心を焼こうと炎を吹き荒らす、その炎を隣のお奉行を青い炎で徐々に焼いていく
「お付き様、桜華のことをお頼みもうします・・・」
桜華の心は刀と1つになり、その刃先先端まで自分の手足となった一体感を感じた、切ろうと考えたわけでもない、刀の意思がそうさせたかのように、自分では気づかない内に体がいつの間に動いていた、桜華がなにかを切ったような僅かな感触を感じ目を開けた時には蒼炎の火黙は横に真っ二つに切られ霧散した
「お見事!」
「私はどうやって切ったのだ・・・」
「こうやってシュパッとだシュパッと」
お付き様はその時の動作を真似していた
「空間事切り裂いたのかと思わず見とれてしまったわい、面白い物を見せてもらったぞ」
「私は・・・・」
「うむ、少々記憶を焼かれてしまったようじゃが、無理もない、まあ体が覚えているじゃろう・・・、いや正確には刀と言っても良いのか・・・ふむふむ」
「そいえばお奉行がいたような・・・お奉行?、思い出せない・・・」
「そうじゃな寸でのところで消失を免れたようじゃな、足先だけ残っておったから、僅かな記憶だけ残っておるのだろう」
その言葉に桜華の右目だけになぜか涙が流れていた
「お、おかしいななぜに涙が・・・」
「最後に良い教示を残したものだな」
桜華は涙を拭う
「さて、桜華よ、そこに蒼炎の火黙が落とした刀があるのだが、その刀に自分の刀を合わせるがよい」
「はい」
桜華は蒼炎の火黙が落とした刀を自分の刀に合わせると落ちていた刀はみるみる溶け、自分の刀に吸収されていった
「これは一体・・・」
初めて見る光景に桜華は驚いていた
「いずれ役に立つと時が来るじゃろう」
お付き様はそれ以上、桜華に語ることはなかった
里くだり 呼霊丸 @codeX84569752
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