復讐の先にある許しを求めて

 第一話でつかまれました。いじめの描写が、今こと、2021年の若い人の間で本当にありそうで。韓流スターという言葉も、残酷でリアルだと思います。

 いじめられた子の描写も、とてもリアルです。誰だって、みんなプライドを持っています。いじめられっ子なんて名前は、絶対にいりません。その唯一のプライドを壊されることが、たまらなく辛いから死ぬまで黙っていることすらあります。
 だから、彼は主人公を攻撃したんだけれど。

 同じ心が傷ついた者同士でありながら、これほどに分かり合えないのです。

 でも、それじゃだめだと私はずっと思っています。

 理解不能だから殺せばいいや、ぶちのめせばいいや、この世から目の前から消せばいいや。

 そんなのでいいわけありません。若い人の心に入ってくる楽しい話が、そんな価値観を肯定していていいはずがないんです。

 殺し合いをしてもいいから、戦争しても、ののしり合いをしても分かり合えないことを確認してもいいから。

 そいつは、そういう奴なのだということが、ぶつかり合いの中で明かされなければなりません。あいつも、こいつも、自分も、居る。それが分からないから、なろう系は危険なのです。

 そして、悲しいのです。
 この物語は、そこに一石を投じようとする気配があります。

 私は個人的に、異世界転生のアンチではあります。

 だけれど、それが必要なくらい追い詰められる状況が、今この時代にあるということも、知っているし想像しているつもりです。

 私が知っている作家志望のある人は、とてもまじめな人で、かつて徹底的なアンチ転生小説を書いていました。最初からただ強い主人公が、徹底的に敵を倒して爽快になるという動物的な価値観に、全身全霊を使って必死に抗っていました。自分に足りないものを自覚し、そのうえで、目標に向かって必死に努力する姿勢があり、そのことを信じていたから、許せなかったのでしょう。

 その作品は評価されていました。私も感想を送ったりしました。

 しかし、今彼は転生無双系統の作品を書いて評価されています。それも、ちょっとやそっとの評価などではなく、私が知る昔から、ずっと夢だと言っていたプロの小説家となり、自分の本が出るかも知れないというところまで来たのです。

 私は彼を責められません。楽しませるために、一方的になにかをぼこぼこにするものを書いて、徹底的に留飲を下げることしか必要とされないなら、この時代の物語はそれしかないのだ。

 流れに従え。大きなものに従え。利益を上げろ。

 この理屈に逆らうことができません。

 だけれども、だけれども、というのが、知性であり、それが形になった小説ではないでしょうか。物語というものではないでしょうか。小説や物語を書こうとする人の心の中に、そんなものが存在しないかのような今の状況が、あまりにも辛い。

 どうか、続きを書いて欲しいです。
 私は読みます。私だけでも、読みます。待っています。

 悠が、頭の中の泥から救われることを。
 不完全でも、ヒーローになれることを。
 私は見守りたいと思います。