太古の昔より、有機的なネットワークを構築し、人間に擬態し、人間の社会を利用し、暗躍してきた菌類たちは、とうとう人類の大量絶滅を目指し始めた。
六年前から、菌類に全てを奪われ、改造され続けてきた少年、野口は二人の老人の尽力で脳の改造を免れ、菌類たちとの戦いに挑んでいく。
菌類とは何か。人間とは何か。
つながることで得られる能力。繁栄と引き換えに、書きかえられていく大切なもの。
なんでもできる。絶対に強い。すごい数字を持っている。だからこそ、欠落していくもの。
力がなくても。軽んじられても。あらゆる場所にはびこる苦しみに、精いっぱい立ち向かうこと。変わっていく大切な人の尊さを信じること。
現代においてあらゆる角度で描き尽くされ、それでもなお、追及されているヒーローという造形。その基本中の基本。どんな苦難にも決して頭を垂れないこと。
この物語が表現する正しさは、パワハラでもロジハラでもありません。信じられなくなったはずの何かが、温かく心によみがえってくるのです。
人間が人間らしく戦う勇気の賛歌。きっと、あなたの何かを変えてくれるでしょう。
この小説は、少年たちが人類の存続を懸けて「有肢菌類」と闘う話だ。
「有肢菌類」とは何か、それは人類を効率的に支配しようと企んでいる知恵のある菌類であり、近々人類の大量絶滅を計画しているモノたちである。
そのなかで主人公の野口鷹志は、当初、運動神経なし、賢さなし、と全くもって良い所ナシの少年のように描かれている。
しかし、読み進めてゆく度にそれは全く違うのだ、ということが分かる。
……不器用なのだ。
そして何より人生に対し純粋で、ひたむきな、真っ直ぐな生き方しか出来ない。
こんな彼に、惹かれずにいられようか。
また凄いのは彼が、そんな自分にめげることなく『努力を続けられる人』であるということ。それは否が応でも周囲の人間を巻き込み、良い方向に変えてゆく。
主人公のみならず登場人物は、みな魅力的だ。そして、共に闘う少年たち、その1人ひとりの背景もしっかりと描かれており、物語へすんなりと没入出来る。
さて、誰もが少年だったあの日。
これを読んで下さっている貴方にも、もちろん少年だった頃が、あったと思う。
あの頃に置いてきてしまった輝きが、悲しみが、友情も、恋心も、今や遠くなってしまったあの日々が、この小説を読み再び蘇ることを、お約束する。
最後に、野口くんの言葉で終わりたい。
『みんな本当にすごい人たちなんだ。この価値がわかるかなぁ、すごいんだよ。』