第16歩 組合結成共同戦線

「お、お待たせしましたぁ……!」

 翌日の朝。サカバーガーの一角のテーブル席に座っていたみはねに声をかけたのは、例のごとく寝坊して、息を切らしながらやってきた寝音子でした。

「じゃあ早速、組合作ろっか。」

「はい!」

 ぐ〜。

「あ、朝ごはん食べてないんですよぉ……。」

 寝音子がだだをこねるお腹を押さえながら言い訳めいた事を言います。

「おごってあげるからここで何か食べればいい。」

「いえ! 今日はお金持ってます! 昨日のスイーツで昼食代が飛んだので、お母さんに土下座してせびってきました!」

「もはや情けないを通り越して清々すがすがしいね……。」

 そうしてお腹ペコペコな寝音子は、一番安いハンバーガーをオーダーし、もぐもぐと頬張りつつ、

「で、どうふるんでふ?」

 これからやる事をみはねに尋ねました。

「『組合組織書くみあいそしきしょ』を書いて受付の人に提出するだけ。簡単でしょ?」

 そう言ってみはねがふところから取り出したのは一枚の紙。これが組合組織書です。

 みはねはそれに必要事項を記入していきました。

「……書けた。あとは組合名くみあいめいだけど……。」

「クミアイメイ?」

「組合の名前。何がいい?」

「えー……『落ちこぼれフリーターズ』とかでいいんじゃないですか?」

「あたしを一緒にしないで。稼いでるはずだから。」

「そんな自明な事をわざわざ口にしなくてもいいじゃないですか!」

「言ってて悲しくならない? それ。」

「じゃあもうみはねさんが決めてください! ふんぬ!」

 やる気を削がれたのか、ネタが切れたのか、みはねに丸投げする寝音子の憤怒ぷんすか顔が、やっぱりどこか絞まりません。

「しょうがないなぁ……『プロテイン王国軍過激派』でどう?」

「軍人不足と名前負けが深刻です! でもプロテイン王国軍が一枚岩じゃないって事だけは分かりました!」

「えー、いいと思ったのに。『決めて』って言ったのは寝音子のはず。」

「そうですけど! そうですけども!」

 反論できないもどかしさを感じている寝音子。対して案が却下されたみはねは他の案を探りました。

 そしてしばらく考えると、再び口を開きました。

「『乙女アドベンチャー』なんてどう?」

「乙女アドベンチャー……いかなる意図で?」

「麗しき乙女である私たちが、目的達成のための方法・手段を求めて奔走ぼうけんするってこと。」

「なんですかそれ⁉︎ 私たちにぴったりじゃないですか!」

「じゃあ決定ね。」

「はい!」

 『乙女』というワードがなんとなく好きな寝音子の賛同により、組合が結成されました。


『乙女アドベンチャー』


 組合組織書を書き上げて受付係に提出したみはねは、組合内部依頼書をささっと書き、寝音子に渡しました。

 内容は次の通りです。

 ……………………

【形式・分類】

 目標達成型/協力

【報酬分与条件】

 本依頼の依頼主のペットのヌサギの新しい住処を見つけることを目標とし、依頼主に協力することでその目標達成に貢献すること。

【仕事内容】

 ヌサギの次の住処を探す手伝いをする。

【集合場所】


【集合日時】


【達成期限】

 5月5日 23時59分

【報酬・分け前・配分割合】

 1,000ウェン

【備考】


【依頼主】

 宇佐美弥羽

 ……………………

「これを受付に持っていけばいいんですか?」

「うん。」

「分かりました。あ、でもちょっと待ってください。」

 寝音子はそう言うと、組合内部依頼書の【報酬・分け前・配分割合】の欄の『1,000ウェン』の文言を2本の線で消しました。

「……どうして?」

「組合まで組んだんです。もう一蓮托生も同然ですから!」

「でも、それじゃこれを書いた意味が……」

「——200ウェン、貸してくれましたよね? 私、あれを現金で返す気はないですよ?」

「もしかして寝音子……」

「貸してくれた分だけで十分です! ……もともとお金のために手伝おうなんて考えは頭になかったですし…………あはは。」

「…………。」

 みはねはちょっと呆れた顔をしましたが、

「ぷっ……寝音子、お人好しすぎ。フリーター向いてなさすぎ。」

 嘲笑混じりの優しい一笑をしました。

「や、やっぱりそうでしょうか……?」

 頭を掻きながら苦笑いの寝音子。

「じゃあ、提出しますね。」

 彼女は組合内部依頼書を受付係に持っていきました。そしてハンコが押されました。

 色々とこじれた話は最終的に無駄になりましたが、これで2人はやっと動き出せそうです。組合『乙女アドベンチャー』として。

 みはねが連れているニクザベス2世もなんだか嬉しそうです。

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