第15歩 少女たちは考える
「それで、結局どうするんです? テレファントもタクシシーもダメとなると……バイスコンとか?」
さあ来ました。みなさんお馴染みのバイスコン。おそらく最も身近な乗り物系アニマです。
バイソンのような見た目をしていますが、お腹の横には自転車のペダルのような平たい突起が付いています。
背中に
「足がお亡くなりになる。」
「ですよねぇ……。」
ただ市販されているバイスコンでは、かなり速く突起を踏まないとまともなスピードが出ません。
ですから、バイスコンに乗るのに必要な免許などはありません。立ち位置的には自転車に近いでしょうか。
「というか寝音子」
「はい?」
「あたしのリクエストは失敗しちゃったわけだし、もう寝音子があたしを助ける義務はないよ?」
「……え?」
寝音子の拍子抜けした表情が春の暖かい日差しで強調されました。そんな彼女に、建物の影に差し掛かったみはねは、
「依頼書の【失敗ペナルティ】の欄、あたし書き忘れちゃってて……。ほんとは『新しい飼育場所を見つけるのを手伝う義務が発生』とか書いといて、手伝ってもらおうかと思ってたんだけど……。」
なんだか寂しそうな言い方をしますが、いまいちその意図が分からなかった寝音子は、
「義務がなきゃお手伝いしちゃだめですか?」
シリアスな、というわけでもなく、ケロッとした顔で訊き返しました。
「……それって、これからも手伝ってくれるってこと?」
「え、ええ……それとも私では力不足ですか?」
「そうじゃなくて、なんというか……
「そういうものですか……。」
この一言を最後に、しばしの沈黙が2人に訪れます。
寝音子はうーんうーんと何かを考え込んでいる様子。
一方みはねは、道路を走り抜けていく乗り物系アニマたちを見つめながら寝音子の次の言葉を待っています。
そしてこの沈黙は、
「じゃあこうしましょう!」
寝音子のハツラツな声で破られました。
「もう一度、リクエストを出してください!」
「……それは寝音子が受けてくれるの?」
「はい! もちろん! 乗りかかったフネノハシですから!」
寝音子の飾り気のないハニカミがぼんやりと輝きます。みはねにはそれがなんだか太陽より眩しく見えました。
「……ありがと。でもそれ、もっと手っ取り早い方法がある。」
「へ?」
「あなたとあたしで組合を組む。」
みはねがドヤ顔でニヤリと笑いました。
寝音子は一瞬ぽかんとしましたが、
「どう手っ取り早いんですか?」
知らない事はいくら考えても
「リクエストを出すには、書いた依頼書をリクエスト管理委員会に提出して、審査を経て認可証を貰わなきゃいけない。それが済んだら、認定酒場店に貼り出してもらってやっと完了。そこまで少なくとも2日はかかる。」
「言われてみれば……。あと6日のうち三分の一が削られちゃいますね。」
「でも組合を組めば『組合内部依頼書』っていうのが作れるから、審査がいらなくなる。」
「その『組合内部依頼書』とは?」
「組合に所属している人が同じ組合のメンバーに対して出せる依頼書。審査が無いし、掲示板に貼り出すプロセスも無いから、依頼者——主には組合のリーダーが書いて、認定酒場店の窓口の人と被依頼者のメンバーがハンコを押せば終わり。リクエストを受注した組合内で、そのリクエストでの各メンバーの役割や仕事の内容、分け前なんかを書類として残すものだね。」
「なるほど! ……でもそれって結局リクエストの受注が要るんじゃ……?」
「実はこれ、単に組合内で自治的な仕事を振る時にも使われるの。例えば活動拠点の清掃業務とか。だから必ずしもリクエストを受注しなきゃいけないわけではないよ。リクエストが会社の委託された業務だとしたら、これは労働契約書みたいなものだね。」
「わ……かりました! とりあえずそれを書くということですね!」
「うん、分かってなさそうだけどそうだよ。」
話がこじれた感は否めませんが、ともあれ、2人は組合を組むことにしました。
「じゃあ、今日はもう遅いから、明日の朝8時、あそこのサカバーガーで待ち合わせでいい?」
「分かりました! ではまた明日っ!」
そうして2人は別れ、それぞれの帰路に着きました。
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