第14歩 憧れと夢
寝音子は財布と一緒に斜め掛けした小さいカバンから取り出したマイバッグに雑誌とザクレアを入れると、店を出ました。みはね跡を追います。
「はぁ……ありがとうございます。今は持ち合わせがないのでまた今度お返ししますね。」
「お小遣いは貰ってないの?」
「私があまりに稼がなさすぎて母の怒りを買い、今は凍結中です。食費以外はほぼ皆無です。」
「なるほど……谷底に落とされた子ライオンみたいな状況なわけね。」
「谷底どころか川底です! 石みたいに下流まで流されて、角が取れて丸くなっちゃいますよ!」
「寝音子は石じゃなくて砂粒でしょ?」
「私はその削りかすの方だと⁉︎ 同意しかねなくはないですがっ!」
「寝音子のプライドは砂粒じゃなくて泥粒だったんだね。それより買った雑誌読まないの?」
「読みます!」
食い気味に答える寝音子。
間髪入れず、ザクレアの包みを開けてガリっと一口頬張ると、月刊アニマ×フリーターズの最初のほうのページを開きました。
「ひゃあー!
そこに大きく載っていたのは、組合『ワタリドリーム』のリーダー・
フリーターというものは、ソロでやっている人もいますが、6割くらいは『組合』という集団を結成して活動しています。
このワタリドリームは、国から発布された超高難易度リクエストを達成した事もあるという強者揃いの組合。
こうして有名な雑誌にも大々的に取り上げられるエリートフリーターたちの集まりですが、特にリーダーの渡小鳥里は、最近ではその抜群のスタイルを生かして“モデルフリーター”としても活躍しています。
「はぁぁぁかっこいいですぅぅぅ!」
水着で汗だくになりながら岩にもたれかかる渡小鳥里の写真やその横に載っていたインタビューの内容に足をバタバタさせながら悶える寝音子に、
「名前は聞いたことあるけど、結局誰なの?」
みはねが質問すると、
「小鳥里さんをご存知ない⁉︎」
ありえない! といった顔で返されます。
そして渡小鳥里の功績や気丈な人柄について早口で熱く語ってくれました。
「————というわけで、ワタリドリームのメンバーが大型トラックマの荷台からぞろぞろと降りてきて、害獣系アニマの群れを片付けたら、次の現場へ向かうわけです! 大きな組合なのに統率がとれててすごいんですよ! あの人数とお手伝い系アニマをトラックマに乗せて指揮を執る小鳥里さんはほんとすごいですよねぇ! あ、私いま“すごい”ばっかり言ってますね!」
「へぇぇ……。」
長いので、みはねは途中から半分ほど聞き流していました。
「私、小鳥里さんみたいに、リクエストをこなしながら各地を巡る旅をするのが夢なんです。そのために、サイクルマの免許を取るのが当面の目標なんです。」
「その“小鳥里さんみたいに”っていうなら、トラックマには乗らないの?」
トラックマも、背中の前方はトラックの運転席部分の形になっていますが、後方は積載部として大きなスペースがあり、多くの荷物を乗せる事ができます。
積載量が他の乗り物系アニマより多いので、輸送用トラックとしての役割を果たしています。
「さすがに大型交通アニマ運転免許はハードルが高いです……。」
「そっか。」
みはねは寝音子の夢をちょっと楽しそうだと思いましたが、同時に彼女の運転ではなんとなく心許ないとも思いました。
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