ひまわり
Mondyon Nohant 紋屋ノアン
夏の空気は、光でこしらえたゼリーのようです。山や
もう、一時間も
「なにも、みつからない」
僕は
ある人におみやげを持って帰りたかったのですが、喜んでくれそうなものが無かったのです。きれいな人ですから、プラチナの指輪とかサファイアのイヤリングなんかならきっと
水晶のかけらは見つかりませんでした。すこし
「やけに、ふさいでいるじゃないか」
目の前で、ささやくような声がしました。
「ずいぶんと長い間さがしていたね。わたしも貧しいから水晶なんか持っていないよ」
やっぱり、誰かが僕に話しかけているようなのです。僕は、もう一度麦藁帽子のひさしを上げました。
「そんな不思議そうな顔をしなさんな。君が子供のころは、よく話をしてあげたじゃないか」
声の
「水晶をあげられなかったかわりに、物語をきかせてあげよう。短い物語だ。どうせ、ひまなんだろう」
小川の物語なんか、めったに
「ほら、ずっと上流の方だ。ひまわりの
「去年は二本しかなかった。一本は大きなひまわり、もう一本は小さなひまわり」
川の物語が始まりました。
「ねぇ、きれいなひまわりさん」
小さなひまわりが、声をかけます。しかし、大きなひまわりは、空をむいたままです。声が小さいのです。小さなひまわりは、再たあきらめ顔です。
「どうして、彼女はいつも知らんふりなんだろう」
小さなひまわりはかなしくなりました。
背の高いひまわりも、
花は皆、光が好きですが、特にひまわりはそうです。
背の高いひまわりの広い葉のかげにいたために、小さなひまわりは、光を十分に
小さなひまわりは、毎日、彼女を見上げていました。彼女の葉や
「君は、他のどんなひまわりよりもきれいだよ。もっとも、他のひまわりを見たことは無いけど」
風が頭の上の葉をよけてくれたわずかな時間に、花びらをせいいっぱい振るわせて言うのですが、全く通じません。大きなひまわりは、自分のすぐそばに自分と同じひまわりが
大きなひまわりの歌をきいていた時です。
「君は歌わないのかい?」
「花たちはみんな歌っているよ。サルスベリもムクゲも風に合わせて歌っている。おまえの隣のひまわりなんか、この近くじゃ一番うまいぜ」
「僕も、ひまわりなんだ」
蜜蜂は信じられないといった顔をしました。
「ずいぶん小っちゃいから他の花だと思ったよ」
「
「ほんとだ、ここは、となりのひまわりの葉っぱの
蜜蜂は大きなひまわりの葉の
「よし、おいらがとなりのひまわりに言ってきてやる。あんたのおかげで、かわいそうな目にあっているひまわりがいるって」
「いや、いいんだ。ここも
「ばかいえ。
「本当にいいんだ、いまさら彼女に何を言ったって、しようがないじゃないか。それに、彼女の歌を聴いているだけで僕は幸せなんだ」
蜜蜂は首を傾げ、少しの間、小さなひまわりをみつめていましたが、
「おいら、やっぱり話してくるよ」と言うと、ブーンと
大きなひまわりの歌が聴こえなくなりました。蜜蜂と話をし始めたのでしょう。蜜蜂と大きなひまわりの
「このごろ自分が
蜜蜂が急に話しかけたので、大きなひまわりは、少しびっくりしたようです。
「君の
「ずいぶんお
「いや、蜜蜂は正直者さ。それだけじゃない。蜜蜂は、お
蜜蜂はおおきなひまわりの花の上にとまりました。
「何をやっているんだい」
頭の上の大きな葉の
「葉っぱを
「えっ」
「彼女が、そうしてくれっていうんだ」
「そんな事やめてくれないか。彼女がかわいそうだ」
「君に日光をあげたいんだって。せめてものプレゼントだそうだ」
「そんなものいらないよ。僕は、毎日、彼女の歌をきかせてもらっている。それに、僕が彼女にあげられるものは何もない」
「いや、君が彼女にあげられるものはたくさんある。君も彼女も気がつかないかも知れないけどな」
小さなひまわりは、何とかやめさせようとしますが、蜜蜂は知らんふりです。
とうとう蜜蜂は、おおきなひまわりの
葉は、小さなひまわりの顔を
「空って、こんなに明るかったのか」
小さなひまわりは、てっぺんが
それに、大きなひまわりの花も見えます。
蜜蜂は、どこかへ飛んで行ってしまいました。大きなひまわりがお礼を言おうと思った時には、もう居ませんでした。
いま、川の
「さて、僕もそろそろ流れていかなくちゃならない。物語は、このへんでやめるとしよう」
川は、少し疲れたようです。
「ポー」
遠くから
しかし、あまり帰りたい気持ちはありませんでした。この村にいれば、小川の物語も聴くことが出来ますし、それに、あのお
「今日わたしが話した物語を、小川でひろったと言ってプレゼントしたらどうだい。水晶なんか
「誰にプレゼントしろっていうの?」
「君の
小川はそれだけ言って、サラサラと流れて行きました。
(おわり)
ひまわり Mondyon Nohant 紋屋ノアン @mtake
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