第13話 ボルン
「巡回者が来たぞ、扉を開けろ」
北の果て第一区画の最北拠点ボルン。周囲を高い山々に囲われ、不浄石が襲ってくることが少ない拠点だ。フズヤグの拠点は周囲に何もなく、雪原が広がっていたが、ボルンは森の中に造られている。拠点の規模はフズヤグよりも大きく広い。
「お世話になります。コルニット・クロイツです」
「部屋は314号だ」
「あ、すみません」
こちらの声かけなど無視して、鍵を渡すと宿の主は自室と見られる部屋に急いで戻っていった。
「拠点のルールを聞きたかったのに」
受付には大量の鉱山への移動予定路を書いた紙が提出されており、今は人が出払っているのか宿は静かだった。
「明日誰かに聞かなくっちゃ」
荷物を下ろしに部屋に向かった。部屋の作りはフズヤグと変わらず。硬そうなベットと机と椅子だけ。フィリップさん営む宿と違って花のひとつも飾っていなかった。
いつものようにリュックから地図を取り出し、巡回予定地を確認する。
「よし、確認終わり」
机にインクビンとペンを出し、巡回予定路を書いていく。地下に潜るので地上路とは別で坑内の予定路を作成する。
リュックから師の分厚い青い手帳の一冊を開き、メルロポンティ地下鉱山の記載を探す。
「こっちは第二区画。これかな?」
三冊目の黒い手帳に手を伸ばした。
メルロポンティ地下鉱山の記載は、手帳の中ほどに記載されていた。僕がまだ三歳だったころに師と一度訪れたことがあるようで、その時は僕のクロスボウガンの作成の為にミスリルを巡回ついでに取りに寄ったらしい。
巡回するのは師が潜った坑道と同じもので、全長は105マイト、深さは最大で708メルト。他の坑道もあるが、別の巡回者が回るだろう。
「地下635メルト付近より上質なミスリルを採取」
師の記録を読み直す。
師は一人で潜ったのではなく途中まで、現地の鍛冶師に先導を頼んだらしく、注意時項を事細かく手帳に書き留めていた。抜け道や崩落が起きた時の救出用の物資の位置、師の手帳の情報量には驚かされるばかりである。
「巡回者でも空気が薄く長いは不可能」
作成し終えた、巡回予定路を受付に提出しに行くことにした。
受付には宿の主人が出かけるのか、防寒着をきていた。
「何かあったんですか?」
「メルロの方で崩落が起きた。これからそりで向かう今は人出が欲しい、お前も来るか?」
「行きます! すぐに用意します」
受付に巡回予定表を出し、急いで部屋に戻って支度をして飛び出した。
「よしよし、お前たち悪いが夜どうし走ってくれ」
「ガウ」
そりは風を切ってメルロポンティ地下鉱山へと向かった。
※
「どきなさい!」
「アッシュリア姉さん、落ち着いてくだせえ。ククリスの嬢ちゃんならきっと無事だ。ブッハァ」
アッシュリアの行く手を阻んだ男は、殴り飛ばされ宙をまった。
「あぁ、やっぱり私もついていくんだった」
「あ、姉さん。いま他の奴らが現状を確認してますんで、この辺の地形を変えるとか言わんでください」
「今すぐに助けに行くわ‼ 入り口はどこかしら?あの子の身に何かあったら私が生きていけない」
「泣かんでください姉さん」
アッシュリアのウソ泣きをゴンズが心配そうになだめている間に、ゴンズの部下が戻ってきた。
「ゴンズの兄貴、聞いてきましたが地下の深い場所で崩落が起こったみたいで、どこの入り口からも奥へは行けんみたいです。それとククリスの嬢ちゃんはまだ出てきてないそうです」
「ゴンズ、この辺りちょっと深く掘っていいか聞いてきてくれる?」
「姉さん勘弁してくださいよ。まだほかに生きてる人がいたらどうするんですか?」
「あぁ、まてない。まてない‼ 私のククリスが、暗い所で一人閉じ込められて泣いているのよ」
「ククリスの嬢ちゃんはそんなやわじゃ、ブッハァアア、イテテテ」
顔をまた殴られ、今度は関節技を決められる。
「兄貴ー‼」
「ゴンズ、黙りなさい。モズ、今ここの責任者は誰かしら?」
「サンズ鍛冶屋のスグスっていう名の知れた鍛冶師です」
「む、向こうでおらんでる、爺さんだ‼」
ゴンズは早く放して欲しく情報を漏らした。
「ありがと、ゴンズ」
ゴッキ。ゴンズの骨が折れた。
「くそ痛てぇー」
痛みにのたうち回るゴンズを放っておいて、アッシュリアはスグスの元に向かった。
「なんじゃ、若いのわしに何か用か?」
スグスはアッシュリアを見上げる。
「知り合いが埋まってるの、助けたいからこの辺り地形を変えていいかしら?」
「奇遇じゃな、わしの知り合いも埋まっておる。あんたのやり方で助かるんかいのう?」
「無理ね、巡回者以外死ぬわ」
「なら、帰ってくれ。はなから話にならんかったが」
スグスはアッシュリアを無視して、現場に指示を出してまわる。
「頭、ここもダメです」
「次じゃ、向こうの瓦礫をのけい。その下に緊急用の降下口がある」
スグスの指示に皆すぐに従う。
「あたしにできることは?」
スグスの後ろをついて回るアッシュリアが尋ねた。
「あのあたりの瓦礫の撤去を手伝え、お前さんらが働いてくれんと事が収まらん」
「すぐに終わらせるわ」
アッシュリアが斧で指示された場所を薙ぎ払うと、瓦礫は粉々に砕け散った。
「頼もしいの」
アッシュリアはウインクをスグスに返した。
「頭ここから降りれそうですが、大人は無理だ狭すぎる」
「広げれそうか?」
「無理ですね深いので時間がかかります」
「あたしが掘ろうかしら?」
「よしな若いの。食料を下ろせ、それと周囲に風を送る穴をあける。星は我々を助けてくださる。この穴を通れるのがおるだろう探せ」
体系の細い者を次から次に試したが、だれも通れる者はなかった。
試せる人間がいなくなり諦めかけていた頃、スグスの部下が少年を連れてきた。
「頭、連れてきました」
「坊主、いけるか?」
「行きます。巡回石も降りろと示してますので」
「野郎ども、急いで準備しろ」
周囲は慌ただしく準備を始めた。
「上はわしらで何とか探せるが。地下に行くのは、お前さんしかたのめん。無理に救助者を探す必要はない。崩落からすでに6時間立っている。深いところは、生きておる奴の方がすくないはずだ。自身の安全を最優先に考えろ。ロウソクの火が消えたら捜索はあきらめて帰って来い。覚醒者でないお前は酸欠ですぐに死ぬぞ」
スグスは少年に地下鉱山の地図と下ろす地点を教える。
「おぬし名は?」
スグスは、宙釣りになった少年にエールを送ろうと名を訪ねた。
「コルニットです」
「……そうかい。シルバの坊ちゃんだったかい。地下の構造は頭に入っとるか?」
「はい、師の手帳に細かく記してありました」
「よしよし」
スグスは少しうれしそうにしながらその場を離れていった。
「姉さんちょっと待った。相手はガキです無理を言うもんじゃない」
「ちょっと少年」
アッシュリアはゴンズを払いのけコルニットに話しかけた。
「はい」
「私の弟子を必ず連れて戻りなさい‼」
「……えっと」
「無理するな少年」
「駄目よ、ククリスは生きてる、連れて帰りなさい‼」
「何をもめておる」
言い争うゴンズ達とアッシュリアを見かねて、スグスが戻ってきた。
「いい、連れて帰ってくれたら。あなたの石が覚醒するための手助けをしてあげてもいいわ」
「姉さん、それはちょっとあの方に相談しないと」
「責任は私が取る。感じるの、ククリスが危ない。ククリスの命の方が村の掟より重いの」
アッシュリアの表情には余裕がなかった。
「わかりました。ククリスには一度助けてもらてますので、お約束はできませんが、なるべく深くまで潜ってきます」
「あなたククリスを知ってるのね」
コルニットが了承すると、アッシュリアは暴れるのをやめた。
「話はまとまったか、助けるなら時間がねえ。さっさと始めるぞ」
スグスは、そういうと後ろの命綱をもった部下たちに声をかけた。
「おまえら‼ ゆっくり下ろしな、へまするんじゃねえぞ‼」
「おお‼」
「いいか、地下320メルト地点に下ろす。問題が起こったら発煙筒で煙を上げな。すぐに引き戻してやる。星の加護があらんことを」
スグスは最後にコルニットの背中を軽く叩いた。滑車がきしみながらコルニットは光の届かない穴の中へとゆっくりと下ろされていった。
死にゆく星の果てに 石田ゴロゴロ @isida01565
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