第3話

 私は4月から、2月に受験をした東京の中学校に通います。

 ちいちゃんは学習所というところに通うそうです。


 私は春休み中に東京へ引っ越します。

 岡山で生活するのも、あと3日です。


 今日、ちいちゃんのお家に遊びに行きました。


 ちいちゃんの今まで書いた絵本を、順番に見せてもらいました。

 すごいと思ったのは、ちいちゃんが1年生のときに書いた絵本が、今読んでもとても面白いということです。

 6年生になって書いた絵本は1冊ですが、ちゃんと製本されたら本屋さんにだって置いておけるくらいきれいな絵だし、読みごたえのあるお話になっています。

 私のお気に入りは、ちいちゃんが3年生のときに書いた「トモッコ姫とアメンボの池」です。なぜなら、トモッコ姫のモデルが私だからです。


 絵本を読み終えると、することがなくなってしまいました。レゴもお人形遊びもする気が起きませんでした。ちいちゃんと話すこともありませんでした。

 私はちいちゃんに、引っ越し先の住所を書いたメモを渡しました。本当は手紙を書こうかと思ったのだけれど、書けませんでした。

 ちいちゃんも住所を書いたメモをくれました。そうすると、もう本当にすることがなくなってしまいました。


 2人でただ並んで座っているだけなのに、ちいちゃんはにこにこしています。

 私は我慢していたのに、どうしても涙が出てきてしまいました。ちいちゃんが「大丈夫。」と声をかけてきたので「大丈夫だよ、ごめんね。」と言いました。ちいちゃんは、にこにこして「うんうん、いいよ。」と言いました。

 ちいちゃんは最後まで泣きませんでした。私は帰る時間になってもずっと泣いていたのに、ちいちゃんはずっとにこにこしていました。

 私にはわかります。ちいちゃんは私のために笑ってくれていたのです。


 1年生から6年生の終わりまで、ずっと仲良く遊んだのはちいちゃんだけです。

 いつもちいちゃんはお家の窓から私が来るのを待っていて、私の姿が見えると家から飛び出してきました。そして私の手を、ぎゅっと握ってきました。

 5年生のときに、私の手さげかばんがハサミで切られたり、図工の時間に、しわをつけた紙や丸めた紙を画用紙にはっていって作ったロケットの絵が、いつの間にかびりびりにやぶられていて、学校に行くのが怖くなったときも、ちいちゃんは変わらずに笑顔でいてくれました。

 私はずっと、ちいちゃんは心が敏感だから、いろいろと心配りをして支えてあげているつもりでした。でも、実は私がちいちゃんを支えるよりも、私の方がよっぽどちいちゃんに支えられていました。


 私は1歳で東京から引っ越してきたので、この岡山で暮らした記憶しかありません。11年も過ごした岡山の町をはなれるのは、とてもさびしいです。

 でも東京の中学校はどうしても行きたかった学校なので、これからがんばって勉強したいです。将来は宇宙を調べる研究者になりたいからです。

 それにせっかく東京に住むのだから、国会議事堂や最高裁判所を見学してみたいです。博物館もたくさん回りたいです。




 小野寺千恵子さんへ


 ちいちゃんと遊ぶの楽しかったよ。

 ちいちゃんの絵本楽しみにしてるからね。

 自分でお金を稼げるようになったら、私は必ず会いに戻ってくるよ。

 だからちいちゃんも絵本書きになって必ず会いに来てね。


 ちいちゃん、ありがとう。

 友よ、また会おう。


 朝倉智子より

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別れのとき との @tono-10no

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