第2話

 今日、ちいちゃんと2人で大型ショッピングモールに行ってきました。卒業式の次の日に、ちいちゃんから私の家に電話がかかってきて、2人で大型ショッピングモールに行こうと誘われたのです。

 私はびっくりしたけれど、ちいちゃんの方から誘ってくれたのがうれしくて、絶対に行こうねと返事をして約束しました。


 電話を切ってから母に報告すると、「2人だけで行って、途中でちいちゃんの発作が起こったらどうするの」と心配していました。

 たしかにちいちゃんは大型ショッピングモールのような、人で混雑するところには行けなかったはずです。

 しかも、私とちいちゃんの住んでいる地区から大型ショッピングモールに行くには、バスに乗って行かなければなりません。私は、子供だけでバスに乗るのも大型ショッピングモールに行くのも初めてでした。


 私は父に相談しました。父は私の話を「ぬう」とか「むう」と言って聞いていましたが、私が話し終えると、「わかった、2人だけでやってみいや」と言いました。その代わり携帯電話を持っていって、いつでも連絡を取れるようにしておくことにしました。


 私は父のパソコンを使って、当日の行き帰りのバス停の場所、バスの時刻、運賃を調べてメモしていきました。

 また大型ショッピングモールですることも順番にメモしていきました。

 お金は私もちいちゃんも同じ額を持っていくことにしました。バスの運賃も含めて2500円持っていくことにしました。


 そして今日、お昼を食べてから、1時にちいちゃんの家に行きました。そこからバス停まで歩き、バスに乗って大型ショッピングモールに向かいます。

 バス停のある道は車やバイクがびゅんびゅん通る道でしたが、ちいちゃんは平気でした。


 バスに乗ったら整理券を受け取らなければなりません。私はそのことを知らなかったのですが、ちいちゃんが教えてくれました。ちいちゃんは、最近では病院に行くときにバスを使うのだそうです。私はちいちゃんが日中に出かけられるようになっていることに驚きました。

 バスは扉が開く度に、ペーという大きな音がしましたが、ちいちゃんは平気でした。

 バスを降りるときに、お金を機械に入れます。バスの運賃は、おつりが出ないようにちょうどの金額を用意していたのですが、お金を入れるところが2か所あって、私は少しとまどいました。ここでもちいちゃんが、片方は両替のために硬貨を入れるところだと教えてくれたので、安心してお金を支払うことができました。


 大型ショッピングモールでは、まず1階から順にぐるっと1周していきました。

 2階を見て回っている途中で、アクセサリー屋さんがあったので入ることにしました。

 私とちいちゃんは、何かおそろいのものを買おうと話し合いました。ひとつひとつ丁寧に見ていくと、かわいくてきれいなアクセサリーがたくさんあって、どれにするか迷いました。ちいちゃんも迷っているようでした。

 私とちいちゃんはお互いに「どうする。どうする」と言い続けていました。こんな、迷っているのにワクワクする気持ちの買い物は初めてだったので、とても楽しかったです。

 私とちいちゃんは、おそろいのお花のヘアピンを買いました。ちいちゃんは黄色を、私は藤色を選びました。

 せっかくなのでレジの店員さんに値札を取ってもらって、ヘアピンをつけることにしました。

 その後、またひとつひとつお店を見て回っていると、3階にゲームセンターがあったので行こうとしたのですが、音がうるさそうなので入るのはやめにしました。


 ひと通り回り終えたら、フードコートで2人でアイスを食べました。

 アイスを食べ終わったら駄菓子屋さんに行って、いろいろなお菓子を買って、またフードコートで食べました。

 お菓子を食べ終わると、向かいのソファでちいちゃんがうつらうつらと眠そうにしていました。

 大型ショッピングモールを見て回っている最中に、ちいちゃんは何度か不安そうな顔をしていました。もしかしたらちいちゃんは、車やバイクがびゅんびゅん通る道も、バスの中も、大型ショッピングモールを回っているときも、どれも平気そうに振る舞っていただけで、一生懸命我慢をしていたのかもしれません。私はバスの時間がくるまで、ちいちゃんをそのままにしておきました。


 私は、ちいちゃんは大きな音や人が大勢いる場所が苦手だと思っていたけれど、今日はちゃんと計画通りに、大型ショッピングモールに行って帰ってくることができました。

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