別れのとき
との
第1話
友人の千恵子さんは、大きな音や人の大勢いる場所が苦手です。
心がとても敏感なのだそうです。
小学校の2年生から学校に来ていません。
先日の卒業式も欠席してしまいました。
私はちいちゃんと、卒業式は出ようねと、大分早くから約束していました。
ちいちゃんの担任の先生は、私の4年生のときの担任の先生です。だから卒業式を欠席した場合、卒業証書授与のときにどうなるのですかと、聞いてみました。
先生は、欠席の場合は「小野寺千恵子、本日欠席です。」と伝えるとおっしゃいました。
私は、皆が名前を呼ばれて返事をしているのに、ちいちゃんだけが1人だけ「本日欠席です。」と言われるのがとても嫌でした。
ちいちゃんだって、なんとか家で勉強していたのです。絵本もたくさん書いています。
だから私はちいちゃんに卒業式は出ようよ、と言いました。
ちいちゃんは「ええ。」と泣きそうな顔になりました。それでもちいちゃんは、出ると言いました。
卒業式の朝、私はブレザーとスカートを着て、ちいちゃんの家に行きました。
ちいちゃんもブレザーとスカートを着ていました。
私は、ちいちゃんも自分も普段見慣れないかっこうをしているので、少しおかしくなりました。でもちいちゃんはロボットのような顔をしていました。
手をつないで外に出ようとしたのですが、ちいちゃんは玄関でかちこちに固まってしまいました。どんなに引っ張ってもまったく動きません。
私は「今日で学校最後なんだよ」と言いました。
ちいちゃんは何も言いません。ただロボットのようにかちこちに固まっています。
私は、ちいちゃんとつないだ手をはなせませんでした。
私はどうしたらいいのかわからなくなりました。ちいちゃんの手をはなして、自分だけ学校に行くことはできないと思いました。
すると私とちいちゃんのつないだ手を、ちいちゃんのお母さんが両手で包みました。
「ともちゃん、ありがとう。千恵子はもう十分がんばったんだよ。ともちゃん、6年間ありがとう。さあ、手をはなしてともちゃんは学校に行こう。」
そう言うと、ちいちゃんのお母さんは、私とちいちゃんの指と指の間に強引に手を入れてきました。それがものすごい力だったので、私は驚いて手をはなしてしまいました。
私はちいちゃんのお母さんを見ました。
ちいちゃんのお母さんの目は真っ赤でした。けれど目を真っ赤にしながら笑っていました。
そんなちいちゃんのお母さんを見ると、私は決まって涙が出そうになります。
だから私は泣いてしまう前に、わかりましたと言って、ちいちゃんの家をおいとましました。
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