最終話 名前
基地の破壊については依頼主の契約違反がそもそもの原因なのでペナルティこそなかったが、反撃で基地を更地にしたことについてはやりすぎというのが上の見解らしい。
それについても、責めるというよりもまだ僕はまだ従順なコマとして使えるのかという疑問の方が大きいようだった。その後の仕事もするたびにナノマシンのメンテナンスやカウンセリングを執拗に勧められた。それらを断り、今は自宅での療養をすると伝え、現場から離れている。
きっと、上の疑念は正しい。傭兵としての僕はもう壊れてしまったのだろう。
今の僕ではこの仕事で首を切られるのは時間の問題だった。それが書類上のものか物理的なものになるかはわからなかったけれど。僕にはもう、機械のように武器を振るうことはできないと自分の機能を理解していた。
小さな同居人は珍しく家に長居している僕に何を言うでもなく、普段通りにしていた。
僕はもう、傭兵としてはふるまえない。でも、僕が狙われることになれば彼女も当然に危険にさらされるだろう。
僕にはどうすればいいのかわからなかった。
「君は・・・どうして家に住むことにしたの?」
彼女は突然の問いにすこし目を瞬いた後、笑顔でこう返した。
「私にいてほしいって言われた気がしたから!」
とても単純で、でもだからこそわからなかった。
「僕は新人類で傭兵だ。君の仇だ。一緒に住んでそれはすぐわかったはずだ。それもわかっているのに、なんで一緒にいられるんだい?」
ほんの少し、出会ったあの日の警戒を乗せて。
「嫌いになったり、あきらめる理由を探すよりも、できることを探すほうが楽しいよ?」
彼女は全く意に介さず、そう返した。その時の衝撃を僕は忘れることはできないだろうとそんな風に思えた。
「そっか。そうかもしれない。」
彼女は僕を必要としてはいなかった。彼女は最初から自分の足で立って、自分で道を決めていた。最初は自分への同情から、しかし途中から彼女は僕がいる人生が楽しいという理由でいてくれた。
「探したいものができたんだけど、一緒に探してくれないかな?」
僕は彼女を必要としていた。何一つ自分で決められなかった自分を彼女と一緒なら変えられる気がした。初めてだれでもない僕と一緒にいてくれた彼女となら。きっと。
「いいよ!そのかわりにね。お願いがあるの」
初めてのお願いだった。
「なんだい?」
「名前を呼んでほしいの」
当たり前のことだったのだ。誰かを認めない僕が認められるはずがなかった。ようやく僕は誰かを認めることができるのだと。
「わかったよ」
――――————
初めて、彼女の名前を呼んだ。その声は僕の声のようでそれよりもとても暖かい声だった。
鉄色標 チャッピー @Kchappy
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