第8話 新生

 いつもよりスケールの小さいアイビーが僕に加速する。いつも僕が操った力が僕に振るわれる。ブレードは一直線の弾丸のように僕の心臓を狙う。


 現実なら貫かれて絶命するしかない。だが、これは僕の夢で僕の未来への分岐点だった。


 僕の衝動は生へしがみつく。


「アイビー!!」


 体と僕の魂が重なる感覚。全く同じブレードが、弾丸となった白刃を弾き返す。


 勢いを完全に殺され、体勢を崩したアイビーのコクピット向けて、プラズマキャノンを放つ。青白い閃光が走る瞬間、アイビーもまた腕だけを振るい、素早く武装を解き放つ。


 閃光はふたつになり、干渉しあうプラズマでお互いの左腕は吹き飛ばされた。


 「君の言うことはまだわからない。」


 痛みはあった。けれどそれ以上に自分を突き動かす何かがあった。


 「でも、僕の居場所はもう故郷ここにはない。僕の心を守るナノマシンにはもう頼れない。」


 アイビーのブレードがアイビーを薙ぎ払う。素早く躱す敵の装甲に浅い傷がつく。返される刃はアイビーの薄皮を切り裂く。


「だから探さなきゃいけない。僕が帰る場所と、これから僕が行くべき場所を。」


 再び振るわれた二つ刃は重なり合い、火花を散らした。


「正直に言って怖い。僕はここしか知らなかった。君しか僕を理解するものはなかった。」


「罪も重ねた。たくさん殺して奪った事実はきっと死ぬまで僕を縛り付けるだろう。」


 刃に力を籠める。言葉にしながら、未来に受ける恐怖を打ち消すように。


「でも、今は彼女がいる。彼女が僕を帰る場所だと思ってくれているから。きっと、僕も、どこかに僕の帰る場所を見つけられる!」


 ブレードが敵の刃ごとボディを切り裂く。


「今まで僕を守ってくれてありがとう。僕の心は大丈夫だから、見守っていて欲しい。」


 チリチリと焦げたにおいがする。相手の姿はいつの間にか僕の姿に戻っていた。


「僕は君だ。君が望むように僕は変わる。古い君が、自分の心を守ったように。これから君が君自身となるように。君がだれでもない君である限り、ナノマシンはただ君の力だ。」


「ありがとう。さようなら。古い僕。」


「さようなら。頑張れ。新しい僕。」




 二つの声は重なって消えた。

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