分割

Tylorson

第1話 変わり果てた世界で


特にすることが無くぼうっとしていた。


「今日もうっさいな…ったくさぁ…」

銃声が数分ごとに鳴っているが慣れたもので、半ば冷めた目で窓から「戦士」たちを見ていた。


ちょっと畑に行ってくるか。

畑からはマキザールとパルチザンが争っているのが見えた。同じ日本人なのに何故争っているのだろうか。


新型コロナウイルスが世界を襲ったのは3年前のことだった。世界中に感染が広がり、世界恐慌以来の大不況が世界各国を襲った。それは対立を深めていたアメリカと中国にとっても例外ではなかった。


形勢はアメリカが優位だったが、突如中国軍がミクロネシアのカロリン諸島へ侵攻したことで一気に戦争へ突き進んでいった。

太平洋への軍事パフォーマンスは陽動作戦で、中国海軍本隊は沖縄、そして九州への上陸作戦を始めていた。


経済的に苦境に立たされ、さらに三峡ダムが決壊し多くの犠牲を払った中国政府にとって国民の目を外に向けさせることは死活問題だった。日露戦争に敗北し不満を逸らそうとバルカンで攻勢をかけたかつてのロシア帝国と何も変わらない。


対して米軍と自衛隊は朝鮮半島で北朝鮮軍と中国軍の満州方面軍をなんとか阻止したが長崎への中国軍の上陸を許し、そこから長野まで追い詰められる。しかし中国軍はアルプスを越えることができず反撃を食らい、兵庫まで撤退する。

戦線が膠着し2年が経過し、そのまま朝鮮戦争と同じ流れで休戦協定締結となった。

ポーランド分割と構図は全く同じだった。しかしコシチュシュコは現れることはなかった。


その後は戦争で荒れた地域には民兵組織が次々に生まれていった。

ワクチン開発は失敗し、社会は追い詰められ治安は見る間に悪化していた。

民兵どもはこんな山の中にもいるくらいなので、最早珍しいものでもないだろう。


俺ら国民は明日の飯を食べなければ生きていけない。

黙って畑を耕すしかなかった。

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