叛逆ソケット
水定ゆう
叛逆ソケット
これは誰かのお話だ。
そして私の体験したお話。
大学へ向かおうと私は歩いていた。
若葉色の木々が脇を覆う遊歩道だ。
私はそんな道端あるものが落ちていることに気がついた。
それを見つけた私は、不意に手を伸ばしてそれを掴み取った。
見てみるとそれは銀色のソケットだった。
私は落ちていた銀色のソケットを拾った。
ソケットは真新しく錆びていない。
私は好奇心から中を除いて見ることにした。悪いことだとは思うが、人間の探究心と言う名のよくない欲に押し負けてしまったのだから仕方がない。
ソケットの中には大きな紅葉が茂る大樹と、そこに立つ女性が一人。
若くて綺麗な女性だ。
ピンクのワンピースに白いズボン。
ちょっと背伸びした黒のハイヒールを履いている。
ボブカットの黒髪は白い肌によく似合う。
私は想像した。
この写真を撮ったのは誰かと。
彼氏かもしれない。両親かもしれない。
しかしそれなら何故この人はこんなに不思議な顔をしているのか。
笑顔には違いない。
だがここまで嬉しそうな笑顔で写真を写している。女性の目は何処を見ているのか。その目線の先、そこには誰かいるはずである。
しかし女性の目は虚げに空を見ているように物静かで、口元の笑顔は優しそうだ。
女性の顔色はいい。
とてもいい。林檎のように溌剌とした赤ではない。しかし何故か良いのだ。青く澄んだように顔色は変化している。
真新しい服と、春先の今では考えられない景色が広がる一枚の写真。
私はもう一つ気になった。
表面は傷やシミのひとつもない。
しかし、その裏は少し汚れている。黒いのだ。
そして首にかけるための輪っかもない。
せいぜいポケットに押し込んでおくぐらいしか役に立たない。
ソケットには文字が彫られている。
FとK。たったの二文字だ。
頭文字だろうか。一体なんの。
女性と誰かのことを表しているのだろうか。
それは定かではない。
しかし私には一つだけ確信があった。
このソケットは古い。
相当に古いのだ。
しかし真新しい。
まるで意図的にそうしているかのように。
それなのに裏面は黒い。
私は写真を剥いだ。
剥ぐのには多少の時間と労力を費やした。
するとそこには確信が広がる。
確信は奇妙だった。
そこにはクシャクシャの紙切れが収められている。
かなり古い。
そしてそれを広げてみた。
内容は単純。
たったの一言だ。
「私の人生で、今が一番幸せ」と……
私はそれを交番に届けた。
それを必要としている人がいるからだ。
さて、ここで問題である。
その写真の裏にあった紙はとても古かった。
そのせいか、ガッチリと押し込まれる形ではめ込まれていた。
私はそれを外す時、奇妙な液が固まっていたのに気がついていた。
それでも凄く冷静だった。
私は知らないし、何でもないと思ったからだ。
だけど、私の灰色の脳細胞は気がついていた。
その液が黒く、異臭を放っていることに……
叛逆ソケット 水定ゆう @mizusadayou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます