願いをさえずる鳥のうた

尾八原ジュージ

願いをさえずる鳥のうた

 総務課に三島さんという若い女性がいる。僕とは本の趣味が合うので、給湯室などで会うと雑談などする仲だ。友好的だが、それ止まりの仲である。

 そんな浅い付き合いの僕が、彼女からこんな話を聞いてしまったのはさて、どういう風の吹きまわしだったのだろうか。

 ともかく僕はそのとき彼女に「三島さん、何か怖い話知りませんか」と尋ねたのだ。


 三島さんの父方のおばあさんの家は、田舎の古い農家だった。天井が高くて夏は涼しいが、冬はめっぽう寒い。家中に明かりの届かない暗がりがあって、三島さんはおばあさんのことは好きだったが、家自体は怖くて苦手だった。

 おばあさんの部屋の戸棚の上に、大人の両手に載るくらいの大きさのオルゴールがあった。どこで手に入れたかは定かでないが、あまり古いものではなかったようだ。木箱の上に青い小鳥が載っている愛らしいデザインだが、普段はネジを巻いても鳴らなかった。壊れていたのだ。

「普段は、です。たまに鳴ることがあって」

 三島さんはそう断った。

 おばあさんによれば、それは「魔法のオルゴール」で、「願い事を叶えてくれる」のだそうだ。

 オルゴールに願い事をすると、まれに壊れているはずの機械が動いて、音楽が聞こえることがある。それが、願いが叶うサインなのだという。

 幼い三島さんも何度かお願いをした。それは大抵、変身ステッキがほしいとか、子犬を飼いたいとか、他愛のないものだったが、オルゴールが鳴ることは滅多になかった。

「一度だけ、鳴ったことがあったんです」

 彼女が四歳のとき、「妹がほしい」とお願いをしたことがあった。そのとき、手を触れてもいないオルゴールが勝手に鳴り始めた。同時に、機械仕掛けの鳥の小さな嘴がパクパクと動く。それはまるで、本当に小鳥がさえずっているように見えたという。

 初めて聞いた曲は、『星に願いを』だった。

 それからしばらく経って、三島さんのお母さんの妊娠がわかった。やがてお願いした通り、元気な女の子が産まれたという。


 なるほど、不思議な話ではある。

 こういった怪談話もあることはあるが、恐怖譚というよりは、心暖まるファンタジーの要素が強い。

(「怖い話」かと言われれば、微妙だなぁ……)

 そんな僕の表情を見てとったのか、三島さんは話を続けた。

「その鳥のオルゴールね、今はもうないんです。バラバラに壊れちゃって」

 何年か前、地震の時に棚から落ちてしまったそうだ。

 そのとき、壊れた箱の中から、切断された人間の指が出てきた。カラカラに乾いてミイラ状になっていた。

 それが外れた途端、オルゴールは『星に願いを』を奏で始めた。機械に指が引っかかり、オルゴールを鳴らないようにしていたのだ。

「でも、鳴るときがあったんですよね? その、妹さんのときとか……」

 僕がそう言うと、三島さんは曖昧な顔でうなずいた。

「馬鹿げてるんですけど私、その指がオルゴールの中で動いていたんじゃないかって思うようになって……結局家族みんなで、お寺に持っていきました」


 指の持ち主はわかっていない。

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願いをさえずる鳥のうた 尾八原ジュージ @zi-yon

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