たとえばあと一滴でも垂らせば溢れてこぼれ落ちそうなコップいっぱいの水をずっと持ったまま行儀良く立っていろというのは相当のストレスだ。長谷部さんはそういうことをやっている。欲求が無機質なものを破壊するだけでは収まりが効かなくなってきていていよいよ動くものを手にかけたいという感情に支配されつつある。時折覗かせる「やらない」「ダメだ」と言った理性がよりストレスを増幅させて解放されたい心情とひっきりなしに反復する。彼女はきっとありふれた日常から溢れてしまった自分がまだコップの中にいると錯覚することでなんとか保たれていて、おそらく過去(中学時代?)に何かが壊れてしまっている。だからネイルハンマーはお守りなのだ。物を壊す行為は少なくとも彼女の邪悪な欲求を引き留めている。ただそれがダメになりそうな今の長谷部さんには他人、或いは自分の消滅が必要だと本人は考える。願わくばそんなことはないと教えてくれる人と出会ってほしい。彼女と一緒に電車から降りてくれる人と。