ターニャ・デグレチャフ、存在Xとの当世界での最期の邂逅

まとめなな

ターニャ・デグレチャフ:享年107歳

※注意:この物語は、Web版101話の最終回およびアニメ&劇場版「幼女戦記」をもとに作成をいたしております。

(最終回は読みましたが、齟齬が有り、ターニャは若くして死亡致しております。それ故、あくまでも2020年まで生きていたというif設定である旨を記載いたします)

 今後の幼女戦記の書籍版進行にて改変がない場合にはある程度のネタバレになってしまいますので回れ右をよろしくお願いいたします。


<とある民間軍事会社の統一暦2020年度四半期決算報告書>

企業情報

【提出書類】 有価証券報告書

【根拠条文】 証券取引法14条

【提出先】 合衆国財務局長

【提出日】 2020年8月1日

【事業年度】 第70期(自 2019年4月1日 至 2020年3月31日)

【会社名】 Zalamander Air Service。(略称:ZAS)

【英訳名】 ZAS CO.,LTD.

【代表者の役職氏名】 代表取締役社長 ターニャ・デグレチャフ

【本店の所在の場所】 (略)

【電話番号】 (略)(代表)

【事務連絡者氏名】 取締役執行役員管理本部長兼経理部長 ツイーテ・ナイカ・リストラーント

【最寄りの連絡場所】 (略)

【電話番号】 (略)(代表)

【事務連絡者氏名】 取締役執行役員管理本部長兼経理部長 ツイーテ・ナイカ・リストラーント

【縦覧に供する場所】 Zalamander Air Service 合衆国本社

          合衆国証券取引所


第一部【企業情報】

第1【企業の概況】

1【主要な経営指標等の推移】

(1)連結経営指標等

  別途資料参照。


2【沿革】

  別途資料参照。


(1)人材サービス事業

①人材紹介

 人材紹介におきましては、「労働者派遣遣法」に基づき「有料職業紹介事業」の運営を行っております。

 派遣先様および弊社人材のマッチングにより、航空運搬、機動性の高い労働者の派遣を行っております。

 求人企業と転職希望者の間で資料提供、オンライン踏まえた面接等を経て採用が決定した場合、当社は求人企業より成功報酬として紹介手数料を受領いたします。


②民間軍事会社

 直接戦闘、要人警護や施設、車列などの警備、軍事教育、兵站などの軍事的サービスを行う企業。


(2)コンサルティング事業

 派兵におけるスケジュールの立案。


(3)機材貸与・事業

 軍需企業「ヘキサゴン」から買い受けた演算宝珠、飛行補助装置などの貸与および使用方法のレクチャー。

 要望であれば中古品の譲渡。

 国家内での人命救助を円滑に行うための人材育成も兼用しております。


(4)その他

①IT・ネット関連事業

 貸与品および派遣人材の管理、運営を賄うシステムの構築を請け負っております。


②海外事業

 世界にまたがる人材派遣の観点から、演算宝珠や飛行補助装置を使用できる少数の人材の派遣を行っております。


以下、別途資料参照。


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 私はZASの広報担当、ツイーテ・ナイカ・リストラーント。

 勲章を持つ退役軍人たる祖父からのつてでこの会社に入った。

 リモートでのWeb会議を経由し、四半期決算報告書がつい先程完成した。

「あとは会社のページにアップロード、と」

 jooooojle.rhのWebサービス経由でアップロードを行った。

 …Web会議中に、誰一人として報告書をまともに見てなかったのが気になったけど…。


 ZASは、表面上は人材派遣会社だが、実態は、機動性の高い民間軍事会社だ。

 民間軍事会社はその特性上、批判の的にさらされる。かのロックウェル財団もエレン・カーから新聞で告発された。

 弊社は、ターニャ社長の知り合い、アンドリューという記者のつてを介して、その新聞社のシクソン広報部長にもみ消してもらった。

 演算宝珠という媒介を通し魔法を使用し、ヘリコプターなどの航空機を使用せずに飛行を行い辺境地や危険地域への救助などに向かえる。

 航空機の発達のおかげで、右から左へ流れるように世界各地を飛び回っている。救助任務、果ては戦場。

 大戦を経てもなお、連邦と合衆国の冷戦、15年も続いた極東B戦争、湾岸地域への多国籍軍戦争、

 フットボール戦争、対テロ戦争、東武紛争…。これでもたった一部。ブラック企業も真っ青だ。


 仕事の話はこれくらいにしようか。流石に気が張りすぎて困る。寝よう。

 寝る直前まで作業している俺としては、温かいミルクとストレッチで8時間睡眠という生活が羨ましい限りだ。

 …とはいえ、張り巡らせた糸が緩むかのようにウトウトとしはじめた。


 スヤスヤ。


 真夜中、秋津島国の名作と名高いアニメ「妖精戦記」の再放送が流される深夜Geisterstundeの末の時刻。

 

 ブルブルブルっ ブルブルブルっ ブルブルブルっ

 バイブレーションだけにしたスマートフォンが幾度となく鳴動する。

「誰だ?こんな時間に」

 かかってきた番号を見る。この番号の地域は…会社?でも会社の番号は人事部・システム部・外国支社含めすべて登録していたはず。一体誰からだ?


 ピッ。


「はいもしもし。こちらZAS広報担当、ツイーテ・ナイカ・リストラーントです」

「…この書類を書いたのはお前か?」

「…はい?何でしょうか?」

「ホームページの2020年四半期決算報告書を書いたのはお前かと聞いている!!」

 電話口から老婆の怒号が聞こえる。

「社長はおろか、会長職さえも退き、退役軍人然とした落ち着いた生活をと思っていたというのに、なぜ私の名が…」

 怒号を発したと思ったらつぶやくように声を出した。

 今、何時かわかってるのか…?ホームページ更新から直ぐだぞ…?

「あの…どちら様でしょうか…?」

「私か?創始者の名前と電話番号は記録・記憶しておくものだぞ。社長の名前に記載があるターニャ・デグレチャフだ」

 社長?!確か年齢は107歳…もうすぐ長寿記録にも乗る年齢だぞ?!

「…社長の名」

「…え?」俺は素っ頓狂な声を上げた。

「社長の名前が私になっている。今すぐ修正しろ!!私は創始者であっても今は社長ではない!!それに、わたしが使っていた名前はターシャ・ティクレティウスだ!!覚えておけ!!」

 …祖父からは「ターニャ・デグレチャフ」って聞いていたんだけど、まさか偽名を使っていたとは。

「で、ですが、リモートでの会議の稟議は通っておりますし…」

 1:00の今からWeb会議招集は無理があるぞ。

「ですが、…」

 遮るようにターニャ氏の声が響き渡る。

「『ですが、ですが』と盾突きおって。ならば、規律というものを叩き込んでやろうか…っ!!」

 怒号のボリュームがピークに達する。

「…って、私としたことが。売り言葉に買い言葉。これでは似たようなものか。仕事だ。感情は抜きだ。理性に基づく自由意志において…コホン」


 怒りのこもった口調から一転、ドライな口調で俺を攻め立てる。

「うむ。ただでさえミスも多く、改善のための業務命令も無視された」

 ミス?たった一つの書類の誤りが?確かに戦場ならば一瞬のミスは文字通り命取りだが。

「さて。あなたを我社が継続雇用する理由がどこにあるでしょう?」

 何?!何をいきなり!!

「って、ちょっと待って下さい!!リモート会議での副社長含めた稟議は通っております!!それに、今からWeb会議の招集となると…」

 無視するようにターニャ氏は続けた。

「来月の給与査定を楽しみにしておくことです。お引取りください」

 って、リモートで仕事しているのにどこにお引き取るというんだ?!逃げ場なんてないぞ!!

 どうしてだ。どうしてこうなった?!


プツッ ツーツーツー


 私はターニャ・デグレチャフ。最近暇を持て余しているため、深夜の秋津島国アニメーションを見ている。スナバ珈琲店のドルマイヤーを飲みながら。

 セレブリャコーフのコーヒーほどではないにしても、今は、インスタントコーヒーでさえ味のクオリティが上がっている。

 セレブリャコーフに戦後に聞いたところによると、コーヒーの水は、工場の水質汚染が少ない川の水を調査してひとっ走りして飛んで汲んできていたと聞いた。

 執事のような有能さに感嘆とするばかり。

 今のインスタントコーヒーの味もセレブリャコーフのコーヒーの味も、コーヒー党の私にとっては喜ばしい限りだ。


 コーヒーを口にしつつPCでアニメを眺めている。

 かつての私の戦場に似た、面白いアニメだな。演算宝珠も知っているとは。

 教会での戦闘シーン。ボロボロになった少女二人のラストシーン。

『獣め。とても付き合ってられん。さよならだ』

 今、スーの称号を持つ『ソニア』というキャラが宝玉と胸をトレンチガンで撃ち抜かれた。

 戦場でのトレンチガン使用は条約違反だと思っていたが、戦後に知ったのだが、トレンチガン使用の不当性はあくまで帝国の一方的な主張であり、合衆国からは、戦争に紳士的な対応など荒唐無稽とばかりに突っぱねられたようだ。


 話は進む。

「どうしてだ…。どうしてこうなった~!!」

 幾度となく使われる名台詞でこの劇場版アニメは締めくくられた。エンドクレジットが流れる。


 さて。アニメも見終わった。寝るとしようか。フカフカのベッドでな。


 労働対価が支払われる限り、昨今のコロナ禍においても、面倒なリストラの宣告もきっちりやる。

 会社のルールを作っているのは私だ。苦労はない。

 かのシカゴ学派を引用するまでもなく、ルールはシステムの円滑化に不可欠。

 そのルールさえ守っていれば、いずれはZASもより大きくなる。

 熱っぽくはあれど老いて尚人生はますます順風満帆…。

 …の、はずだった。


 ドクンっ!!心臓が急激に鳴動する。

「…うぐっ!!息が、できない…肺が、く、苦し…」

 これがコロナによる肺炎というやつか…?!老人にとっては致命的な致命傷につながると噂の。

 雨がざぁざぁと降りしきる。辺境の街に構えた一軒家の建てたばかりの家の壁を揺らすほどの。


ピタッ


 気がつくと、雨の音が止まった。

 …時が止まった…?!コレは、例の…?!今更…?!

「いいかげんにしてもらいたい」

 時が停止しているはずのPCから、定額視聴動画サイトのアニメの幼女キャラクターの口が動き声が聞こえる。かつての私に似た声だ。

「…存在X…!!」

 平和を享受してはや75年。合衆国に居るため拳銃は持っているが、流石に床の間にまでは持ってきていない。しまった。


「『再び命を落とさば、次の転生は、ない!』と脅しつけた前世からはるかに長生きしたな。107歳とは恐れ入る。ゴキブリ並みのしぶとさだ。ただ、その年になってさえ世の理から外れまくるとは」

 存在Xは続ける。

「他社への共感力も、創造主に対する信仰のかけらも微塵も見られん」

 呆れるように存在Xは放言する。しかし私も思うところはある。

「残念だが存在X。貴様を創造主だとは一度たりとて思ったことはない。事象だ。あくまでも事象Xだ」

 存在Xは反論す。

「幾度となく時を停止させ、奇跡や恩寵を与えて続けてもなおそう思いこみ続けるか。思い上がりも甚だしい」

「その口ぶりからすれば協商連合軍のあの親子も貴様の差し金だったのだな」

 忌々しいあの糞袋どもめ。

「あの親子の祈りは他のものよりも遥かに強かった。それだけだ。我を崇拝し創造主に祈りを捧げるものに恩寵を与えるのは神の努め」

 私が言えた義理ではないが、恩寵、ぶっちゃけチートすぎるだろ連中の魔力は。あんなもの衛星攻撃兵器だ。


「私は今もなお、現実的で理性的な観点から神の存在など認めん。唯々諾々と過ごすなど愚の骨頂」

 さらに私は存在Xに畳み掛ける。

「神なる身であるならば、こんな不条理な行動を起こすわけがない。コロナで亡くなるほうがはるかにマシだ。これはもう悪魔の所業だ、存在X」

「また私を悪魔呼ばわりするか」

 存在Xを否定するように私は言った。

「もっとも、悪魔じゃないことを証明するのは不可能。中世ヨーロッパのローマ法で言うところの『悪魔の証明』というやつだ。『悪魔の証明』理論を創造主に当てはめるとそのまま特大のブーメランになるのだがな。矛盾極まりない」

 更に私は続ける。

「そもそも科学の発展した世界では信仰心など望むべくもない。誰かにすがるという行為は弱者が窮地に追い込まれてこそのもの。科学もはるかに進歩した世の中で、窮地に追い込まれないための勉強時間を手に入れるため、パソコン、スマホやタブレットで情報を集めつづける必要があるこの世において、1時間の休憩時間中の食事でさえもったいないというのに、神に祈りを捧げるなど時間の無駄。二重三重の無駄のキワミ。私のような上場企業の長には無縁の代物だ」


 存在Xは思慮を新たに私に告げる。

『なるほど。貴様へ信仰心を植え付けるには、今回のような科学が多少進歩した魔法戦争世界などではなく、一層のこと中世の最高位聖職者にでもしてやったほうが良いのかもしれんな。再び例外となるのだが』

「ちょっと待て」

『更には今のように体が資本などのたまえないようにもしてやろう。社会的強者の立場でなお社会的弱者の気持ちを味わうと良い。信仰も目覚めるであろう』

「話を先にすすめるな!前にも言ったがルールを破るつもりは微塵もない!」

『『ルールを作るのは私』だとかほざいてなかったか?そんな態度で言っても説得力ゼロだ』

 存在Xは放言する。

『さて、転生の時間だ。再びこの言葉を貴様に手向けるとしようか』

《せいぜいそこで長生きするがよい。再び命を落とさば、次の転生は、ない!》


 どうしてだ。どうしてこうなった…!


 …私ターニャ・デグレチャフは、心臓の鳴動を繰り返したのちに呼吸を止めた…。

 享年107歳。


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 真夜中。ライヒ、バンク山の頂に一人膝を付き祈る、金髪碧眼の老人の修道女。

「隊長は、私に新しい世界を切り開いてくれました。戦場で戦々恐々としつつも楽しい毎日。ずっと怯え続けていた日々も懐かしい」

 持ち歩いていたスマートフォンが鳴動した。チャットソフト「ストリーマー」に、別々の人物から2つのメッセージが届けられていた。一つは、


8/1 1:51『ターニャ様がお亡くなりになられました』 from ZAS従業員


もう一つは…。


8/1 0:52『今のコーヒーは、勧められたインスタントのドルマイヤーでも十分美味しいな。礼を言おう』 from ターニャ・デグレチャフ


「最後のメッセージが、これとは…いつまでも隊長は隊長ですね…」

 穏やかに、かつ、悲しみをたたえた笑顔でスマートフォンの画面を眺めた。

 死亡…私達の年齢からは当然起こりうるものと思っていたが、突然…。

 これから、残り短くとも、年下である隊長の居ない人生を過ごしていく。

 隊長が護り残してくれたこの国と功績・勲章を胸に生きていく。

「隊長…もし生まれ変われるのでしたら、もう一度、貴方のお側に…」

 彼女は、目に涙を浮かべ、手を前に組み、少し目をつぶりうつむきがちに祈りを捧げた。その後、満点の星空を、顔の雫を拭き取りもせず目を見開き見上げた。

 彼女の名は、ヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフ。


To be continued...???

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ターニャ・デグレチャフ、存在Xとの当世界での最期の邂逅 まとめなな @Matomenana

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