夢ランダム 2 下

 太田おおたさんが学校にそして夢の中でも現れなくなってしまってからもう三日もたった。夢の中でも太田さんは現れそうにない。ここまで長い間夢ランダムの問題が続いたのは俺が入学部してから初めてのことだ。あの日から俺たちは毎日部室でもそして夢でも集まっている。しかし、具体的な解決策は見つかりそうになかった。

「もうどうしようもなくないですか?学校に来ないんなら正直お手上げですよ。夢で太田さんと仲良くなったとはいえ所詮は夢なんですから。それに・・・」

「そこまでよ。北村きたむら君。それ以上はダメ」

 そう三年生の月乃つきのさんが木葉このはを黙らせる。そして木葉はっとして日向ひゅうがさんを見る。日向さんはとてもつらそうな顔をしている。それもそうだろう。俺たちは太田さんと夢の中のほんの数日間の付き合いだが日向さんは俺たち以上の付き合いで、尚且つ夢だけでなく現実でも付き合っていた人だ俺達なんかとは比べ物にならないくらいに辛いだろう。

「すみません。日向さん。俺無神経な発言しちゃって・・・。」

 木葉がおどおどと声を挙げた。

「いや。木葉の言う通りだ。お前らは夢ランダムの解決をしなければいけないとはいえこの状況なら仕方がないだろう。今回の問題は俺が個人的に解決する。解決するまでは夢ランダムが続くと思うが部室で好きに時間をつぶしてくれて構わない。すまんが今日は生徒会の仕事があるんだこれで失礼させてもらう」

 そういうと日向さんは部室を出て行った。

「あーあ。日向さん出ていっちゃったじゃない。これはこのっちが悪いよ。日向さんがかわいそう」

 日和ひよりが木葉に声をかけた。これは日和の言う通りだが日向さんはひとりで解決しようとする人だっただろうか・・・。

「俺らはこんなに夢ランダムが長引くことがなかったのでわからないんですが何か問題があるんですか?」

 俺が月乃さんに尋ねると月乃さんが少しつらそうな顔をしながら答えてくれた。

「私がまだ一年生だった時に一度だけ長引いた時があったわ。その時はその・・・」

 月乃さんが声を詰まらせると部室のドアが開いた。

「おーす。なんかトラブってる?」

 部室に顧問のときこ先生が入ってきた。

「続きは先生に聞いてくれない」

 月乃さんが言い放った。本当に言いたくはないらしい。

 そして、俺たちは先生に今回の事情を全て話した。夢ランダムが長引いていること、日向がひとりでも解決しようとしていること。

「そういうことになってるのね。だから太田君は学校に来てないのか・・・。彼が不登校になる理由がわからないから職員室でも議題にあがっていたんだよ。彼に聞いてもただ行きたくないとしか言われないって担任の先生が嘆いていたわ。彼は去年の部活のいざこざの時もちゃんと学校に来ていたしね。心の強い子だと思うんだけど・・・。みんなは知ってるの?美術部のトラブルの詳細を」

 ときこ先生が俺たちに尋ねるが俺たちは答えることはできない。

「ここにいる人の中で事情を知っているのは私だけです。その私も事件の詳細を知っているわけではありません。先生、事情を私たちに話してくれませんか?」

 先生は少しため息をついて話してくれた。

「こうなった以上は教えてあげるわ。事の発端は去年の夏ごろ太田君が絵のコンテストで入賞した時に起きたわ。その時から当時三年生であったある男子生徒が彼に嫌がらせをはじめたわ。彼の描いた絵を破ったり、ぐしゃぐしゃに落書きしたりしたわ。単なる嫉妬だとしてもあれはやりすぎだったと思うわ。彼はそのことにとても悩んでいたわ。たぶん当時から巡田や大場に相談していたはずよ。そして、そのことに気付いた当時の部長がその生徒を退部にさせたわ。嫌がらせが行き過ぎていたのだから当然の報いね。他の美術部の生徒の多くが太田君をかばっていたから彼は部活にその後も行っていたけれど絵が描けないのが嫌になったんでしょうね・・・。彼は部活に行かなくなったそうよ。そして今日美術部の部長が生徒会室に彼の退部の件で相談に来たらしいわ」

 そういう事件だったのか・・・。どこにでもあるような嫉妬の話だがいくらなんでもやりすぎだ。みんなの表情も暗い。

「先生、もうひとつ質問してもいいですか?」

「ん?何武藤君?」

「さっき、月乃さんに聞きそびれたんですが、夢ランダムの問題が・・・要するに太田さんの問題が解決しないままだと何か問題があるんですか?」

 ときこ先生がさらに暗い表情になって答えた。

「夢ランダムの問題が解決できないと判断された場合はその問題を抱えている生徒には退学してもらうわ」

 先生の発言にみんなが凍り付いた。

「そんなことできるわけないでしょう。いくら夢ランダムの問題を管理しているのが校長でもそんなことやっていいはずがない!」

 木葉が声を荒げた。当然だやっていいはずがない。

「そうですよ。そんなこと認められるはずがない」

 日和も賛同するがときこ先生の顔が変わることはない。

「いや、現に認められている。去年そういう事態になったのよ。そうでしょ井林ちゃん」

 月乃さんの表情は暗いままだがはっきりとした声で答えた。

「ええ。去年ひとりの生徒の夢ランダムが解決できず退学になってしまったわ。日向はこの件を覚えているから校長のことを信用しきれていない部分があるわ」

 そういうことだったのか・・・。だから日向さんはひとりでも問題を解決しようとしているのか。

「でも、日向さんひとりで解決できるのか?いくらなんでも無理じゃないか?」

 木葉が問いかける。確かにそうだいくら生徒会長の権限を使っても無理だろう。

「いや、日向のあの感じはもう確信に近づいているからあんな態度をさっき取ったと思うわ。本当につらいなら私たちに協力をあおぐはずよ」

 月乃さんが自信をもって話した。

「よくそんなことまでわかりますね・・・。しかもそんな自信もって・・・」

 日和が呆気にとられるが、月乃さんはすまし顔のままだ。

「なら、そのうち解決できるんですかね。俺にはまだ今回の真相がわからないんですけど」

 木葉が情けない声を挙げたが俺も同意見だ。違和感は感じているが何なのかがピンと来ないもう少しなんだが・・・。

「だったらさー今日夢で日向さんに直接聞いてみない?何かわかっているならそれを聞いちゃおうよ」

 日和が単純だが一番の名案を言った。それが今の俺たちにできることだろう。

「先生、すぐに太田さんは退学されると思いますか?」

「いや、井林ちゃんが言うのなら巡田君が何かわかっていそうだからそのことを学校に伝えるわ。でも、いつまで待ってくれるのかはわからないから太田君が危険な立場にあることは間違いないわ。今、学校に来ていないならなおさらね」

 先生の話を聞いてみんなの顔が引き締まった。時間がないのは確かだ。勝負は今日。み

 んなでなんとかするしかない。

 そして、今日の夢に来た・・・。



 部室につくとみんながもう来ていた。いつもであれば一番遅い俺をみんながからかうが

 今日はとてもそんな雰囲気ではない。

「みんな来たわね。なら日向みんなに話してあなたが今知っていることを全部」

 月乃さんの問いかけに日向さんが答え始めた今回日向さんが裏で行っていたことの全てを・・・。

「太田は絵が描けないのが原因で夢ランダムが起こった。それがみんなの見解だった。しかし、そこにひとつ疑問点がないか?。もし、本当に描けないことが原因ならその時点で夢ランダムが起こると思わないか?」

 確かにそうだ。そこに矛盾が生じている。それが違和感だったんだ。

「俺は前からあいつが絵を描けなくて悩んでいることを知っていたからな。そして、俺は他の原因があると思い今回の夢ランダムが起こる前から色々捜査していたんだ。するとわかったことがある。それは、現実で太田がかつて描いた絵が美術室から消えているということを俺は亮から聞いた。そのことを知った俺は美術部の内部に太田に嫌がらせをしている奴がいると確信した」

 そんなことがあったのか。みんなが黙って日向さんの話を聞く。正直、自分たちの知らないところで話が進んでいてついていけないというのが一番だろう。

「そして、夢ではじめて美術部に行った。その時に俺はある程度犯人の目星をつけたんだがみんなわかるか?」

 怪しい人物・・・。俺の見た感じではそんな人はいないように見えたが・・・。

「みんなわかるか?」

 木葉が問いかけるがみんなが怪訝な顔をする。すると日向さんが話を続けた。

「そいつは、太田に対して嫌がらせを続けた。そいつは太田が絵がまた描けるようになってきたことを知っていて直接退部をしろとまで言ってきたらしい」

「その話は太田さんから直接聞いたんですか?」

 日和が質問すると日向さんが間髪を入れずに答えた。

「ああ。あいつが学校に来なくなってから直接電話で聞いたぞ。しかし、犯人までは意地でも口を割ろうとしなかった。太田は美術部のことを本当に大切にしているからな・・・また自分が原因でトラブルを持ち込みたくなかったんだろう。美術を守りたい自分とまた絵が描けるようになりたい自分との間で苦しめられあいつは不登校になってしまった」

「そんな理由があったのか・・・」

 俺たちにはわからない事情だ。日向さんはまた声を強めて答えた。

「そして、俺は今日そいつと生徒会室で直接対峙した」

「犯人と会って話したんですか?」

 木葉が興奮しながら立ち上がった。

「ああ、次に嫌がらせをすれば退学させるとまで言ってやったよ。ほんとはそんな権限もっていないがな。そしたらそいつそんな嘘にビビッてその場で退部すると言いやがった。それを受理したからもう問題は解決した。後はこのことをあとで太田に伝えれば今回でこの夢ランダムは解決だ」

 もうそこまで進んでいたのか・・・。予想外の展開に俺たちが唖然とする。

「犯人が誰なのかお前らわかったのか?できればあまり大事にしたくない。わからないならわからないでいいがここまで話を聞いてしまったんだしもう他人じゃないからな教えてやるそいつは三年の・・・」

 日向さんが言いきる前に月乃さんが言い放った。

「わかったわ。部長の佐々木でしょう」

 月乃さんがとても冷徹な声で言い放った。

「私は最初、美術部の内部に嫌がらせをしている犯人がいると聞いた時に大場君が裏で何かやっていると思ったわ。だって彼だけが私たちが部室に来た時におどろく素振りを見せなかったもの。日向が生徒会長として捜査に来たのだと予想した。だから彼は驚かなかった。そして、本当は太田君を苦しめている存在だと思った。でも、日向と大場君がつながっていたのなら話ははやいわね。第一夢のあの時点では佐々木は私たちに太田君を退部させないと言っていたのに彼が生徒会室に行くのはおかしいもの。彼が動かなければ太田君は退部できないのだから」

 月乃さんの言葉でピンきた。この学校の校則で退部するには部長の了承を得なければいけなかったはずだ。

「そうだ。それにあの人は美術室に来た時に全員来てるなみたいなことを確か言ってましたよ。本当に太田さんを大切に思っているならあの人全員揃っているなんて言わないはずなのに」

 俺と月乃さんの推理を聞いて日向さんがさらに悲しい顔をしながら答えてくれた。

「そうだ。犯人は佐々木だ。あいつは退部してしまった先輩のことを慕っていて同時に太田の絵の才能にあいつも嫉妬していたらしい。あいつは今日俺に話があるから生徒会室に行くと言ってきた。そして、太田の退部をお願いしに来た。そこであいつが犯人と確信したんだ」

 そういうことだったのかこれで全ての謎が解けた。確かに今回の問題はこれで解決だろうだが腑に落ちない点もある。

「日向さんはどうしてそこまでわかっていて俺たちに教えてくれなかったんですか?犯人の予想がついたのなら教えてくれて良かったじゃないですか」

 木葉の悲痛な問いかけに日向さんはきまりの悪い顔になる。それがわからない。俺たちに教えてくれても良かったはずだ。

「夢ランダムが解決しなかったらどうなるのかは聞いただろ?そうなるのが怖かったからな俺が単独で勝手に動いたんだ悪かったな」

「でも、それでも俺たちに言って欲しかったですよ・・・。俺たちのことそんなに信用してくれていないんですか・・・」

 木葉の行き場を失った怒りが宙に舞っていった。日和ももどかしさを抱えていた。俺もそうだ。一言言って欲しかった。その後日向さんは夢の中で太田さんに連絡したらしい。そして、次の日に太田さんはまた学校に来ていた。佐々木さんは部員に対して勉強に集中したいと退部の理由を説明したらしい。もう夢ランダムは再び起こることもなくなり太田さんはまた絵を描き始めたらしい。大場さんもとてもそのことを喜んでいた。しかし、俺たちは特に木葉は日向さんへの不信感が消えることはなかった。部室にはまだ重苦しい空気が漂い続けている。二週間前まではこんな事になるなんて予想できなかったのに・・・。

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