夢ランダム 2 上
なぜこんな事になってしまったのだろうか。今回の夢ランダムの問題も問題なく進められていた。そう思っていたのに今の雰囲気は二週間前からは想像もつかなかった。
今回の夢ランダムがはじめて起こったのは二週間前だった。いつも通り夢の中で部室に向かった。部室に入ると少し驚いた。部室には俺以外のみんなが揃っていると思ったのに三年生で生徒会長の
「日向さんは?」
「まだ来てない。珍しいこともあるな」
先に部室についていた同級生の女たらしイケメン
「確かに、日向が来るのが遅いのなんて初めてかもしれないわね」
と、日向さんと同じく三年生で部長の
「
「ほっとけ」
そうニヤニヤしながらからかってくるのはクラスメイトの
「まぁいいわ。日向もそのうち来るでしょ今のうちに私たちだけでも情報を共有しましょう誰かターゲットを見つけた人はいる?」
月乃さんがみんなに問いかける。しかし、誰も返答しない。
「まだターゲットがわからないのは厄介ね・・・はやく見つけないと。みんな一旦部室を出てターゲットを探しに行きま・・・」
月乃さんが言い終わる前に部室の扉を開き部長がやってきた。
「すまん。遅れた。だが、その必要はない。ターゲットはわかったぞ。俺の友人で美術部の
日向さんが焦りながら部室に来た。ターゲットが早い段階でわかるのはとても好都合だ。
「太田ってあの太田?」
「ああ。多分お前の思う通りの太田だぞ月乃」
「そのひと有名人なんですか?」
俺が二人に問いかけると月乃さんは少し怪訝な顔をした。代わりに日向さんが答えてくれた。
「いや、別に有名人というわけではないが、去年少し美術部の先輩と揉めたんだ。だが、太田は絵のうまいいい奴だぞ。俺が保証する。すこしおとなしすぎるのが玉にきずだがな。」
そういう事情の人か。でも、日向さんが良い人というのなら本当にそうだろう。
「日向さんと仲が良いなら、夢ランダムの今回の問題ももうわかるんじゃないですか?」
木葉がワクワクしながら問いかける。それもそうだろう。夢ランダムで一番難しいことはターゲットの問題を特定することなのだからそれが分かればグッと楽になる。
「ああ。おそらくだがわかるぞ。大地は美術部だと言ったが今は部活に行っていないんだ。理由はさっき言った先輩と揉めたショックで絵が描けなくなったことだ。しかし、美術部で絵を描くのをまだ諦めることができないと俺は前から相談を受けていたんだ」
「なら、太田さんがまた絵を描けるようにしてあげれば良いんですよね?」
日和が元気よく立ちながら言った。
「ああ。それで解決するはずだ。しかし、今日はもう帰っているからあいつには会えない。明日の夢ランダムになったらすぐに部室に来るように連絡する。そうすればあいつと夢でも接触できるだろう」
夢ランダムによって始まる時間はまちまちだ。その時間にもう帰ってしまっていたもうどうしよもないが・・・。そんなことを考えていてもしょうがない。
「なら今日は、美術部に行ってみましょう。何かわかることがあるはずよ」
月乃さんの提案にみんながうなずく。そして、俺たちは美術部に向かった。
美術室に入る前に俺たちは一つ確認をした。
「いいか。今回の夢ランダムは明日もあるんだ。ここで美術部に怪しまれると明日に響く可能性がある。だからなるべく怪しまれないようにしろ。特に斤吾いいな?」
日向さんの忠告にうなずく。
何日もかかる夢ランダムではその夢で行われた出来事は次の日に持ち越される。夢に現れた人物はもう一つの世界の同一人物のようなものである。連続している限り夢のことを夢の中でのみ覚えていて解決するとすべてを忘れてしまう。そして、ターゲットは夢ランダムの問題が解決されると、俺たちに関する夢の記憶は消え、問題が解決したことのみを覚えている。
日向さんの注意を頭に入れて美術室の扉を開けた。
「日向よく来たな。そいつら部員の奴らだろ?」
「ああ。大地のことで相談に来た。協力してくれ。こいつは
会釈するとその大場さんがにこやかにこっちを見た。
「井林ってほんとにおんなじ部だったんだな」
「そうよ。そういうわけだから太田君のこと他の部員に聞いてもいい?」
「おう。好きにみんなに話しかけていいぜ。でも、絵描いてる邪魔はすんなよ?」
それだけを告げて大場さんはどこかへ行ってしまった。ただの部活の後輩の俺たちがこんなことを調べていて疑問に感じないのだろうか・・・。
「おい斤吾聞き込みをするぞ早く来い」
日向さんに呼ばれたので急いでそっちに向かった。
「大地先輩は絵がとっても上手だし、私たちの質問にも優しく答えてくれるいい先輩ですよ。ね?」
「うん。だから、絵が描けなくても部活に来てほしいなー。また絵のこと教えてほしいし、何より部活に来てくれればまた絵を描きたくなってくれるかもしれないし。あの事だって大地先輩は悪くないしね」
なるほど・・・太田さんは予想以上に部員に好かれているらしかった。誰に聞いても部活に来てほしいし辞めてほしくないと答えている。
「ていうかさ・・・。なんで北村たちが大地先輩のこと知りたがってんの?おかしくない?」
言われてドキッとする。確かに他の部活の先輩の事情を聞くなんておかしな話だ。
「それは・・・。えーと・・・」
木葉がもじもじしていると
「俺が手伝いを頼んだんだ。他の生徒会のメンバーは忙しいからな。暇な同じ部活の後輩に手伝いを頼んだというわけだ」
「そうなんですかー。生徒会長さんの手伝いかー。あんたらも大変ね」
二人が笑いながらまた作業に戻っていった。日向さんの助け舟のおかげでなんとかなった。
「これで全員に話聞きました?」
日和が問いかけると、
「いや、あと一人三年で話を聞いていない奴がいる。そいつに話を聞いて終わりだ。」
「誰ですか?その人?」
「美術部の部長の
日向さんがそういうとタイミングよく一人の男子生徒が美術室に来た。
「おつかれー。流石に全員来てるか・・・。?なんで生徒会長が来てんだ?見慣れない奴らもいるな・・・。何か用か?」
「悪いな佐々木。これは俺のツレだ。話は大地のことだ。やっぱりあいつは部活に来てないか?」
日向さんの問いかけに佐々木さんが少し肩を落として答えた。
「ああ。描けなくなってから来てないな。声はかけているんだが描けないから来ないと言われてる。なんとか退部だけはさせるわけにはいかないからな。みんなあいつの帰りをまってるし何よりあいつの絵は上手いからな。また描いているのを見たいしな」
「そうか・・・。うちの校則で退部するには部長の了承を得ないといけないからな。なんとかあいつの帰ってこれる環境を残しておいてくれよ」
「ああ。勿論だ。あいつは俺が認めないと退部できないからな。そんなこと絶対にさせないぜ保証する。」
佐々木さんの心強い言葉を聞いて安心した。今の美術部には太田さんの問題に関わって
いるようにはあまり思えないが・・・。
「美術部のみんな話を聞かせてくれてありがとう。また何かあったら相談にこさせてもらうぞ」
「おう。いつでも来てくれ。太田にはまた描けるようになってほしいからな」
そう言って部室をみんなで出ていくと、大場さんが追いかけてきた。
「おーい。日向―」
「どうした大地?まだ何か用か?」
みんなで振り返ると大場さんが息を切らせながら言った。
「大地がまた絵を描けるように動いてるんだろ?また手伝わせてくれよ。俺とあいつは今も普通に話しているが、やっぱりまた絵を描いているあいつを見たいからな」
「すまんな亮。なら明日の放課後俺たちの部室に大地と二人で来てくれないか」
「おう。わかったぞ」
そう言って大場さんはまた美術室に戻っていった。
「いいんですか?明日の部室には俺たちもいますよ?太田さんがどんな方か知らないですけど知らない後輩が居たら困りません?」
俺が日向さんに問いかけると、
「問題ないと思うぞ。あいつは別に人間不信というわけではないし、俺も亮もいるから大丈夫だ。それよりあいつのアポが取れるのは大きい。これで明日あいつと直接夢で話せる。それよりどうだ?お前らから見て美術部に何か問題があるように見えたか?」
「俺は、流石にそれは無いように見えましたね。あくまで美術部であったトラブルは絵が描けなくなってしまったこと以外はもう無いように見えました」
「私も同意見です。絵が上手いだけあった後輩にも慕われてましたしね」
「俺もそう思ってます」
「そうか・・・。そうだよな・・・」
日向さんの反応は俺の予想していたものと違っていた。
「私は、すべてが解決しているとは思えないわ。何だか違和感も感じたしね」
「違和感って何ですか?」
俺が月乃さんに問いかけると、
「ごめんね。具体的にはわからないわ。ただの勘ね」
そう言いながら月乃さんは笑っていたが、他のみんなはあまり笑えない。月乃さんのこういう勘は今までよく当たってきた。あまり恐ろしく無いといいんだが・・・。
「とにかくそういうわけだから、明日の部活は休みにしましょう。夢ランダムに影響を及ぼしたくないしね。それでいいわよね?ああ。でも、明日の夢ランダムは遅刻厳禁よ。特に武藤君と日向ね」
「うーす」
俺たちが気の抜けた返事をした。すると意識が朦朧とした。今回の夢ランダムはこれで終了した。
次の日の学校は特に問題もなく過ぎていった。そして、また夢ランダムに来た。
「流石にみんなはやいなー」
遅れてきた日和が部室に入ってきた。これで全員集合だ。
「失礼しまーす。来ましたー」
大場さんが部室に来た。一緒にいる人が太田さんだろう。
「君らが日向の後輩たちか。わざわざごめんな。俺なんかの些細な問題のために・・・」
「いやいや。いいんですよ。俺達も日向さんにいっぱいお世話になってるんですから」
木葉が慌てて答えた。日向さんと美術部員が言ったように太田さんは良い人そうだ。
「早速だけど、私たちの方で色々準備してみたから実践してくれる?」
「ああ。井林も悪いな」
そう言うと太田さんは席についた。太田さんに色々聞いてみると次のことがわかった。
絵が描けなくなってしまったのは先輩とのいざこざがあってその先輩が退部した後からのことで、普通に字を描いたりする分には問題はないが、キャンバスを前にすると手が震えてしまい筆が持てなくなってしまうらしい。実際に筆を持って描いてもらおうとするとやはり震えて絵が描けなさそうだ。そういうわけで俺たちと大場さんで太田さんのリハビリが始まった。俺たちは役にたっている実感はなかったが、太田さんは毎日夢で部室に来てくれた。そのかいもあって少しずつだが、俺たちに笑顔を多く見せてくれるようになり、絵の方も少しだが描けるようになってきてくれた。大場さんも俺たちに感謝してくれてもうすぐ解決に向かうと思っていた矢先に事件は起こった・・・。
今回の夢ランダムが初めて起きてから十日たったある日、放課後教室で友人と談笑していると、日向さんが慌てて教室に来た。
「斤吾、急いで部室に来い!緊急事態だ。勿論木葉達も連れてこいよ。」
そう言って日向さんは出て行った。あの慌てようだと本当にただ事ではなさそうだ。俺は急いで木葉達と一緒に部室に向かった。部室に着くと月乃さんが先についていた。
「どうしたんですか?緊急事態って聞いたんですけど・・・」
日和が息を整えながら尋ねた。
「ごめん。私もよくわかっていないの。私にわかっているのはここ数日太田が学校を休んでいるということくらいよ」
「太田さん学校休んでるんですか。夢でしかかかわりがないから学校生活のことはわからないですね」
「私も今日知ったの。日向が慌てているのもこの話かも知れないわ」
ガンと乱暴にドアが開いた。
「悪いな。呼び出したりして。実は太田が三日間学校に来ていない。最初はただの風邪だと思っていたがさっき亮があいつの家にお見舞いに行ったらもう学校には行かないと言われたそうだ」
その瞬間部室が凍り付いた。それもそうだみんな順調に進んでいるように見えた。少なくとも夢では順調だったことは間違いない。絵も少しずつだが描けるようになってきてくれた。なら何が太田さんを学校に行かせなくしたのだろうか・・・。
その日の夢ランダムで太田さんが部室に来ることはなく、夢の中でも学校に来ていないらしい・・・。
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