夢ランダム

@KUJIRA000

夢ランダム 1

皆さんは他人の夢に対してどんな印象をもつだろうか。夢の真実など見た本人にしかわからないのだから好きに作り変えて自分の都合のいいように変えられる。そんな夢だからこそ意識せずに見た時は自分の周囲に対する印象は大きく変わるのではないだろうか。


 放課後になって、先生の雑用を手伝い終わりいつものように部室に向かう。この高校は、部活動が盛んである。運動部は、サッカー部からインディアカ部なんていうドイツ発祥の名前もわからないスポーツの部活もある。文化部の数もとても多く、俺の所属しているボードゲーム部もわけもわからない部活の一つだろう。

「遅れてすみません。先生の手伝いで遅れました。」

部室に入ると机で興奮している部員がいた。

「日向さん、もう一戦だけお願いします。」

「いーやダメだ。今日は俺の勝ちのまま一日を終える。明日出直してこい。」

「大人げねーよー。」

この文句を言っているのは同級生の北村木葉きたむらこのはだ。その女にも見えるようなルックスからとにかくモテる。全男子の敵のような人間だが意外にも俺と気が合いよくつるんでいる。しかし、噂によればこ高校に通う二年生女子全ての連絡先を知っているらしく、やはり男子の敵だ。

斤吾きんご、次はお前の番だ。木葉は相手にならん。今日はバックギャモンだ。」

そう言いながらニコニコ顔でこっちを見るのはこの学校の生徒会長の巡田日向めぐりだひゅうがさんだ。生徒会長であるにもかかわらず、この学校は生徒会に力を入れていないためいつも部室で遊んでいる。しかし、意外にも生徒達の中では信頼が厚くよくいろいろな人に話しかけられている姿をみかける。

「今日は、遠慮しておきます。月乃さんに聞きたいこともあるので。」

「私に聞きたいことって何?武藤くん」

 そう言いながら本を閉じてこっちを見たのは井林月野いばやしつきのさんだ。スラっとした体格で合気道をやっている三年生の先輩だ。入部当初は、少し怖かったが話してみると物腰柔らかなとても優しくきれいな先輩だ。

「ちょっと数学でわからないところがあって、この問題なんですけど・・・」

「あら、勉強なら日和ちゃんに聞いた方がよくない?あの子ならわかりやすく教えてくれるんじゃない?。」

「そうですね。あいつもこの単元を習ったばっかりのはずなので来たら聞いてみます。」

 そう答えたのも束の間部室のドアが勢いよく開いた。

「遅れてすみません。瀬川日和せがわひより推参です!」

そういいながら部室に来たのは瀬川日和だ。学年でも屈指の成績をほこる俺のクラスメイトでとにかく明るく元気な女子だ。。

「いいところに来た、日和数学のこの問題を教えてくれ。」

「推参についてはスルーなんね斤ちゃん・・どれどれ」

こうしてボードゲーム部は三年生二人、二年生三人の全五名がそろった。放課後の暇なときはこうやって一人一人が思い思いに過ごしている。日和に問題を教えてもらっているうちに下校時刻になった。

「今日は、もう解散だな。」

特に何かを一緒にしていたわけではないのに急に日向さんが仕切りだす。

「何を偉そうに言ってるのよ。一応この部の部長はあたしなのに。」

 月乃さんがやれやれと声を出す。

「んなことはわかってるよ。でも、今日あたりにまた来るだろ?そのためにも早めに帰って備えるのは大切だぜ。」

「それもそうね。なら今日は解散にしましょう。日向の言う通り今日あたりに来そうだしね。」

「やっぱ行くかなきゃダメですよねあそこ。あんま気乗りしないなー。」

木葉が嫌そうな顔でつぶやく。

「仕方なくない?この学校きてこの部入っちゃったんだし。」

「そうだぞ、せっかく入学したんだから頑張らなきゃダメだろ。」

俺も日和に賛同するように言う。

「わかってるよ。ふたりして言わなくていいじゃんかよー。」

「三人とも自覚が出てきてうれしいぞ。今日もしきたら頼りにしてるぞ。」

そういいながら日向さんが笑った。

 学校を出て各自が家に帰った。そして、みんなが眠ったころにあれがきた。




「こんちはー。俺が最後ですか?」

俺が部室に入るとみんながもうそろっていた。

「斤ちゃん遅い。もうみんな来てるのに夜更かしでもしたの?」

「悪い、ちょっとテレビ見てて・・・」

パチン。月乃さんが手を叩いて言った。

「はい。無駄話は終わり。まずは状況の確認と情報共有よ。誰かターゲットにあった人はいる?」

「俺、さっき見ました。二年二組の佐藤莉子でした。目も赤なので確定です。」

木葉の証言から今回のターゲットがわかった。

「北村君ありがとう。この時間からターゲットがわかるのは大きいわね。誰かその佐藤さんについて知っていることがある人はいる?」

月乃さんが俺たちを見渡すと

「私、連絡先は知ってます。でも、あんまり話したことはないから何か答えてくれるかはわかんないです。」

日和は自信がなさそうに言った。

「わかったわ。ならまずは情報収集からよ。いつも通り佐藤さんの最近について聞き込みをして一時間後にまた部室に集合しましょう。」

月乃さんが言うと、

「連絡先は俺もわかるんだから今、直接佐藤さんに聞いたらダメなんすか?」

木葉が疑問を投げかける。すると、

「アホか木葉。直接聞くのはリスキーだって前に言ったろ?何がアウトになるかわかんねえし、何より今回で解決できるに越したことはねえんだからよ。もし長期戦になったときに相手に警戒心をもたれたら面倒だ。」

日向さんが珍しくまともなことを言った。

「そうでしたね。なら地道に情報を集めてきます。」

木葉が納得してみんなが動き出した。

「斤吾行こうぜ。」

日向さんがポンっと肩を叩いて言った。



 一時間後またみんなで部室に帰ってきた。

「みんな何か成果はあった?」

月乃さんが俺たちみんなに問いかける。

 「ならまずは俺から言いますね。佐藤さんは三日前に友達と喧嘩をしたらしいです。でも、誰とどんな内容なのかまではわからなかったです。」

木葉が答えた。

「私もそんな感じです。でも、喧嘩以外のトラブルは聞いてないのでそれが原因だと思います。」

日和が補足する。

「俺はそれに少し補足できる情報がありますよ。喧嘩の相手は同じクラスの七海さんという女子生徒らしいです。」

みんなが俺を少し疑うような目で見つめてくる。

「な、何ですか?みんなこっちを見て?」

「斤ちゃん、また無茶してないよね?どうせ影響を与えないだろうとか、嫌われても関係ないとか思ってないよね?」

日和が疑いの声を上げる。

「さすがにもうしてないよ。この話も日向さんと一緒に行動しててその人が教えてくれたんだから。」

俺が慌てて言いつくろう。

「斤吾の話に嘘はないぞ。そういうことがもう起こらないようにするために俺が一緒に聞き込みをしてるわけだしな。」

日向さんがフォローしてくれたおかげでみんなが納得したらしい。

「私はもう補足できるような情報は得られなかったわ。でも、喧嘩の相手を知れたのは大きいわ。まだ学校にいることに賭けてその七海さんに接触してみましょう。佐藤さんが私たちの存在に気付いた後だと面倒だしね。」

月乃さんが言った。

「今、二組の人と連絡が取れました。七海さんはまだ教室にいて、佐藤さんは委員会の仕事で花壇の水やりをしているらしいです。」

木葉が持ち前の情報網を使いターゲットたちの状況を伝えた。

「なら、それぞれに接触しましょう。日和ちゃんと武藤君で佐藤さんに、それ以外のメンバーで七海さんにアプローチをとるのでいい?」

月乃さんがみんなに問いかけるとみんながうなずいた。

「なら、斤ちゃんはやく行こう。佐藤さんがターゲットなら仲直りをしようとしているはずだからはやく行って仲直りをけしかけてみよう。」

俺たちはグループに分かれて行動を開始した。




「久しぶり佐藤さん。ちょっと話いい?」

日和が話しかけると

「瀬川さん久しぶりだね。私に話なんて珍しいね。水やりもひと段落したし大丈夫よ。」

そう話している二人を物陰から見ながら、木葉達からの連絡を待った。俺達の仕事は伝えてもらう七海さんの意思を確認して、向こうも今、仲直りを望んでいるなら、佐藤さんに仲直りをするようにけしかけることだ。とりとめのない話を続けている二人を見ていると木葉から連絡がきた。

『七海さんも仲直りを望んでる。佐藤さんを行動させたら大丈夫だと思う。』

この旨を日和に伝えに行く。

「日和、準備は万端だ。もういける。」

それのみを遠くから言うと、

「斤ちゃんりょーかーい。ごめん部活の友達が呼んでるからそろそろ行くわ。でも、佐藤さんが元気そうで良かったわ。なんか最近友人関係でもめちゃって元気ないって聞いたし。」

「私、元気なさそうに見える?これでも隠してるつもりなんだけどなぁ。」

佐藤さんがつぶやいた。確かに何も事情を知らない相手は佐藤さんの変化に気づくのは難しいだろう。しかし、俺たちはわかっている。彼女が問題を抱えていること・・・

「よかったら聞かせてくれない?私でいいなら相談に乗るよ?」

日和が問いかけると、

「大丈夫だよ。それにお友達も待ってるんじゃない?」

「いいよいいよ。どうせろくでもないことだし待たせても問題ないよ。あいつなら。」

「そう?なら聞いてくれる?実は前にさぁ・・・・」

佐藤さんは日和に自分が喧嘩していることを教えた。

「そういう事情なんだ・・・でも、佐藤さんは仲直りしたいんでしょ?それなら自分から謝って仲直りすべきだと思うな。」

「だよね。自分から言わないとダメだよね。瀬川さんに相談してスッキリした。ありがとう明日謝ってみるわ。お友達にも私が瀬川さん借りちゃってごめんって伝えておいて。」

「うん。頑張って。」

そう言って二人が別れるのを見ていると意識が朦朧とした。目的達成だ。




次の日の放課後、佐藤さんと七海さんが一緒に帰っている姿を俺は見た。これで正真正銘今回の問題は解決したらしい。

それを部員のみんなに伝えると、

「そっかぁ。仲直りしてよかったね。私が相談に乗る流れがちょっと強引だったから不安だったんだぁ。」

「それはやっぱり佐藤さんが仲直りを望んでいて誰かに話を聞いてもらいたかったってことじゃないか?」

と日向さんが言った。

「何にしても一日で解決できたのは大きいわ。聞き込みもバレなかったことだし。」

月乃さんが言うと、ドアが開いた。

「おーす。月乃から聞いたぞ。また解決したらしいな『夢ランダム』。また校長センセイに報告するから詳細を教えてくれよ。」

 そう言いながら部室に入ってきたのはこの部活の顧問の夢見ゆめみときこ先生だ。

 そう、俺達が昨日の夜経験した現象は『夢ランダム』。この学校の誰かの夢の中に入り、その対象の抱えている問題を解決するというものだ。俺達ボードゲーム部は夜不定期に起こるこの『夢ランダム』という現象を解決している。夢と認識しているのは俺達のみで、夢を見られている本人は夢と認識しておらず、目が覚めることで夢と気づいている。そして、自分が問題を抱えていて、誰がその問題を解決してくれたのかはわかっていない。俺が初めてこの現象と出会ったのは中学一年で、その事を病院に相談した時に紹介されたのがこの学校の校長だった。そして、他の部員のみんなも紹介されてこの学校に入学し、この部活に入部して『夢ランダム』を解決している。夢見先生はこの部活のOBで年齢はおそらく20代位だがこの現象と、ボードゲーム部はもっと昔から存在しているらしい。ちなみに『夢ランダム』と名付けたのは夢見先生らしい。

「校長に報告しないとダメですか?問題は解決したんだからわざわざ報告なんてしなくていいじゃないですか。」

日向さんが声を強めて言った。なぜこんなに嫌悪感をあらわにしているのだろう。

「そんなこといっちゃダメよ。『夢ランダム』を統括してるのは校長センセイでこの部活が活動できて、みんなが入学できたのも校長センセイのおかげなんだから。」

先生がそう返答すると日向さんが黙ってうつむいた。やはり校長の話が出たとたんに態度が変わった。

「とりあえず今回の話を教えてね。また武藤君が無茶したら怒られるのは私なんだし。」

「先生、もうしませんって。日和やみんなに念押しされてますし。」

そう言っても先生は信用していそうにない。俺は昔、夢の中なのだからみんなが忘れてくれるのをいいことにある行動に出てしまいみんなに迷惑をかけてしまった。それ以降あんなことはもうしまいと誓ったのだ。

「まぁいいわ。今回のことがあったから少しの猶予があるはずだから今のうちに羽を伸ばしておきなさいよ。報告は、はやめにしてほしいけどね」

こうして今回の『夢ランダム』は無事に解決できた。いつまた現れるのかはわからないが、今悩んでもどうしようもない。木葉がバックギャモンを取り出している。部員らしくボードゲームをして楽しもう。夢は夜にしか見れないのだから・・・。




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