第八巻

『・・・・』俺の報告書を読み終わると、進藤社長は喫いさしの葉巻を陶器の灰皿の端に置き、大きく息を吐き出し、

『これは全部事実かね?』と、俺に聞いた。


『痩せても枯れても私は探偵です。事実を客観的に報告したまでですよ。』


『そうか・・・・』

 社長はしばらく腕を組み、考え込み、そしてまた葉巻に手を伸ばした。

『では、十七号はもう・・・・』

『ありません。私が破り捨て、その後燃やしました』

 俺の答えに、彼はただ『分かった』と答えただけだった。


 葉巻を口に咥えたまま、彼はソファから立ち上がり、自分のデスクの引き出しから、何かを取り出して戻ってきた。


 横長の分厚いそれは、紛れもなく小切手のホルダーだった。


『ご苦労でした。これで足りますかな?』

 社長は『6』と記した後ろに、0を5つ並べて書き、俺の前に差し出した。

『折角ですがこれは受け取れません。私は今回何も仕事をしてません。むしろ失敗したといってもいいくらいですから。』


 俺と社長はしばらく『貰ってくれ』『断る』の押し問答を続けたが、結局、

『では、必要経費だけ頂く』

 ということで、半額で落ち着いた。


 ええ?

”こんないい加減な話があるか。もっと真面目に仕事しろ!”

 何度同じことをいわせるんだ。


 俺は探偵だ。


 ウソだけはつかない。これは正真正銘、本当にあったことだよ。


 探偵はスーパーマンなんかじゃない。

 タフガイでもない。

 たまにはこういうこともあるさ。


                               終わり


*)この物語はフィクションです。登場する人物その他全ては作者の想像の産物であります。

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まぼろしの17号 冷門 風之助  @yamato2673nippon

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