猫石 (テーマ:プレゼント)
ストーンペインティングとでもいうのだろうか?猫好きの沙絵ちゃんはよく、河原で拾った石に顔と体の模様を描いて可愛らしい猫を作っていた。ある日、一緒に遊んだ別れ際に「これ、あげる」と沙絵ちゃんがくれたのは、ぽっちゃりとしたトラ猫の「猫石」だった。そのストレートすぎるネーミングも沙絵ちゃんによるものだ。
大好きな女の子から貰った始めてのプレゼントに有頂天になっていた僕は、家に帰ってからもずっと机の上に飾った猫石を眺めていた。丁度その頃、沙絵ちゃんが大型ダンプに轢かれて死んでしまったことなど知りもせずに。
告別式にも参列したはずだが、ショックのせいなのか、どうも記憶が曖昧だ。ただお棺の蓋がキッチリと閉じられたために直接別れの言葉をかけてあげられなかったことと、「ひどい状態だったらしいぜ、ほとんど原型を留めてなかったらしい」という誰かの言葉だけは妙に印象に残っている。
「これ、あげる」バイト仲間の由紀が僕にくれた物はやはり、これで十四個目の猫石だった。沙絵ちゃんが亡くなって十年以上経つが、どういう訳か毎年、彼女の命日には必ず誰かが猫石をくれるのだ。上京して大学に通う僕の周りに沙絵ちゃんの事を知るものなどいないし、アパートの机の引き出しに収められた猫石を他人に見せたこともない。それなのに年々、猫石は増え続けている。
それでも、増えるだけならまだ許せる。問題はその形が次第に歪なものに変わってきているということだ。最初に沙絵ちゃんにもらった猫石は猫らしく、可愛らしいものだった。だが翌年から次々と手元に集まってくるものは少しずつ歪みを増し、最新のものはすでに畸形か、事故で轢き潰されたような姿に変わり果てている。生理的嫌悪感を催すようなこの物体を創作し、他人に贈りつける人間の神経とはいかなるものだろう?後日、由紀に問い質してみたところ、何を言われているのか分からないという風にきょとんとしていた。現物を見せても知らない、全く心当たりが無いとのことだったのでそれ以上深くは追求しなかったが、僕に猫石を贈り続けようとする何かの存在に気付かされてしまった。かなり嫌な感じだ。
ところで、由紀に猫石を貰った日から僕の部屋にある変化が現れている。猫石を収めた机の引き出しの中から奇妙な音が聞こえてくるようになったのだ。それは猫がゴロゴロと喉を鳴らしているようにも聴こえるし、声帯を失った者がゴボゴボと何かを話そうとしているようにも聴こえる。そういえば今年は沙絵ちゃんの十三回忌だった。もしかすると、彼女が何かを伝えようとしているのかもしれない。中を見てみれば何かが分かるのかもしれないが、不気味に歪んだ猫石と、閉ざされたお棺の中の沙絵ちゃんのイメージが妙にダブってしまい、なかなか引き出しを開ける勇気を持てないでいる。
怪談アーリーデイズ 蒼 隼大 @aoisyunta
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