第21話 小話2. 『納豆』
「これは絶対ダメなやつだ」
「いやいや、このネバーっとしたのがいいんじゃないか」
「腐った豆だよ」
「発酵っていうんだ」
「この妙な美味しさが癖になるし」
「いや、ダメだろ、こんなもの、美味しくない」
精霊たちが騒いでいる。以前、勇者の渡会君のために持ち込んだ納豆が話題になっているのだ。
あれから時が過ぎ、藁に包んだ納豆が時折、精霊たちの食卓に並ぶようになった。
藁包みのまま売られているというか、置かれている納豆をもらって食べるわけだが……あの時、精霊の国にはビニールとか、ポリエチレンとか、いわゆるスーパーで売っている化学製品がないから、藁包みで出してしまった。
藁包みの納豆は素朴で納豆! という味わいである。
だから、余計に、
うーん。納豆って好き嫌いがかなり、出てくるような気がする。
私は食べなくてもいいけど、たまに出されたら食べてもいいかなと思う程度で、ほんとはあまり美味しいとは思ってない。
蓮は時々和食の時にリクエストしているから、嫌いではないのだと思う。
そして、今回ついに納豆店がオープンした。
藁ではなく、竹皮包みになっている。それと納豆を使った様々なお惣菜もある。併設のレストランもある。
レストランのオープンに招待されて、納豆料理のフルコースを食べる事になったわけだが、どんなものが出てくるのか不安。
お店の前ではたくさんの精霊たちを相手に試食が行われていた。けれど、納豆そのままは初めての精霊にはハードルが高いのではと思う。
食べたことない精霊が「腐っている」と声をあげているわけだ。
「美味しいですよ」
蓮が「腐っている」と言った精霊に声をかけた。
「え、えっ、蓮さま!?」
蓮はわたしの夫なので、精霊の皆さんから蓮さまと呼ばれている。最初は戸惑っていたみたいだけど、今は慣れたみたいで気にしてないみたいだ。
私も女王さまとか呼ばれるけど気にしない事にした。呼び名だけで特に何もないし。
「納豆はそのまま食べるよりは、料理したほうが美味しいのですよ。たとえば納豆巻きとか、納豆パスタとか、特に揚げ物にすると味わいが変わって食べやすいみたいです。大人の味ですね」
「そうなのですか」
「蓮さまがそういうなら」
「このままでは美味しくないのか~」
「いや、これはこれでいい味だよ」
騒いでいる精霊たちの前にレストランのシェフが、納豆の一口包み揚げを持ってきた。カリッとキツネ色に上がって美味しそうだ。それを食べた精霊たちの中にはレストランの予約をするものもあらわれた。
味覚は人さまざまだけど、色んな味を楽しめるのはいい事だと思う。発酵食品は癖があるけど、異世界の他の国にも、ちょっと、というか、かなり癖のある食品もあって、それらは現実世界とそんなに変わらない、らしい。
私は臭いの強いものはちょっと遠慮したいけど、中にはその発酵食品にはまってしまった精霊もいて……。彼はサバーン国のその地域に留まってとある発酵食品の研究をしている。
精霊の国にその食品は持ち込み禁止になっているので、見た事はないけど、なんとなく想像はつく。
本当に人、精霊もだけど、個人の好みは千差万別だと思う。
ところで、納豆のフルコース、以外と美味しかった。 たまにはいいかなと思う。
それに、蓮はどうやら納豆が好きらしい。嬉しそうな顔して食べていたし。
うん。人の好みは様々だと思う。
コビト物語Ⅰ 『異世界から帰ってきたら、世界はコビトだらけでした』 サラ @SARA771
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