感情の鉄砲水一発で吹き飛ぶあまりにも脆く頼りない理性

 人間と同様の感情や記憶を処理するだけの知能を備えたアンドロイドの、お仕事中の考え事もしくは雇い主との対話のお話。
 濃かったです。こういうのはピタッとハマると本当に効くというか、作者の手のひらでころんろころん転がされたような感じが最高でした。いや誤読も多分に含まれてるかもわかりませんが、でも自分が楽しんだので気にしません。こういうお話はガッツリ胃もたれ起こすくらいが一番好みです。
 ジクジクこちらの内側を溶かしてくるかのような、毒みたいな絶妙な邪悪さが本当に意地悪で大好き。主人公の強引な断定っぷりや言い訳くさいところにいちいち共感してしまって、いやこれは因果が逆というか〝共感してしまったからこそそれがそのように見える〟というもの、つまりは完全に自分の映し鏡として読んでいるわけで、とどのつまりは踏み絵です。だいたい同族嫌悪みたいなもの、自分の嫌なところを勝手に他人に重ねる行為。彼女に対して覚えた引っかかる点が、そのまま減衰ゼロで百%自分のところに返ってきて、つまりノーガードの殴り合いをしているつもりがただ鏡に向かってパンチを繰り出していた、この踊らされてる感(勝手に踊ってる感)の気持ちよさといったら。
 そんな自分本位な読書をやめられない自分と、主人公の袂が分かたれた第一話終盤。客観的な状況としても事件性の高い展開。よかった自分ならさすがにここまではしないもんね、と、そう思えたらどんなに楽だったか。むしろ逆で、結局何ひとつ行動に移せない口先ばかりの自分を浮き彫りにされたみたいな、そんな寂しさと悔しさがとてもたまらん感じの作品でした。濃かった!