ひとりごと

気体の状態方程式

2020年7月23日木曜日 海の日

生まれて初めてリストカットと呼ばれる行為をしてみました。正直私は見下しています。

何の生産性もない。合理的でない。近道でもまわり道でもないそれを。



なにか、その日はどうしようもなく意味のない涙が止まらなかったのです。よくある汚いいろの涙です。

特に何か悪いことを望んでいたわけではありませんでした。

いつものように呆然とした安っぽいキシネンリョがうようよと私の中に浮かんでいただけでした。しかし、それだけのことだったとは言いきることができません。幸せなときとはまた違うふわふわで、うきうきするような、きらきらが私に纏っていた気がします。

まったくの素面でした。

久しぶりに何を考えているか分からない時間があったのです。本当の、本当に、久しぶりでした。



ふと赤い水平線を見ると笑みが溢れました。今までの私はというと、血だとかそういうビジュアルにこだわることもなかったので、静かに首から圧迫が広がって、頭がゆっくり振動して、唇がじんじんとするものをそれと捉え、行ってきました。しかし、じわじわと滲んでいる腕を見て、意識なしに、笑う、という動きを選んだのです。

これじゃあまるで、生きたいみたいで仕方なくて、キシネンリョほど、信用のなくおぞましくてぞわぞわするものを初めて知りました。それはいままで私と変わらず生き続けていた本体であると感じていたので、今更何も受け入れられませんでした。


その日私は、snsでリストカットと検索しました。初めてではありません。

「#リストカット」が何もない空間に、秘境を創造していることはあまりにも衝撃的で、それこそきらきらでした。

予想通り青白い画面は瞬時に赤く光りました。不気味で不気味で、ふつふつと、悪い好奇心が湧きました。私のより深くて細くて真っ直ぐな線は、顕示欲によって小さいこの画面を埋めました。同じことをしようとは思いませんでした。

私の心は見せたいとは思えない歪な線でした。

単純に、どうして、思い切りをつけて深くきれいに刃を入れられるのか、疑問を抱きました。

私はというと、ぐらぐらと焦がされ続けていた優柔不断な人生を表す赤だけが残りました。これに近い感情は喪失感でした。喪失感とは綺麗なものです。刃が触れた瞬間、涙は止んでいました。流れる左手は軽く震えつつも、ぐっと光りました。



あのとき、正解が分からない私は鋸のように刃を前後させていました。何度も何度も同じ場所を。そしてようやく私は出ていったのでした。笑みが溢れたのは、本当になぜなのでしょうか。

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