第41話 それゆけ! キャンプ王国
ウェイン達が無事にドルヴァエゴに帰還し、1週間が過ぎた。
その日ウェインは領民達を集め、ドルヴァエゴは「ウェイン・キャンプ王国」と名前を変え、1つの国家として歩んでいく事を高らかに宣言した。
宣言を聞いた全ての領民達は発狂するほど喜び合い、ウェインキャンプ王国の建国祭は3日3晩続いたのだった。
そんな中、王国の人事も発表された。
ウェインは国王として国家のトップに立ち、彼の専属執事兼、宰相となったのが、ステファンだ。
国王補佐にバルカス、王国騎士団長にはリアナが選ばれた。
そしてさらに、王国騎士団の中に4つの部隊を作った。
第1部隊は、族長トシミテが率いるヤメーメ族、約600人
第2部隊は、エルサ率いる女ヤメーメ族、 約400人
第3部隊は、ゴードン率いる農家組合、 約650人
第4部隊は、トーマス率いる農家組合、 約650人
部隊はこの様に編成された。
そして騎士団長のリアナには、とある特殊な親衛隊が付けられた。
それは、3人の女騎士が率いる親衛隊、約500人である。
その3人とは、かつてリアナに教育された貴族令嬢達だった。
彼女達はリアナやウェインの思想の素晴らしさ、本当のキャンプの素晴らしさを各国で主張し、帝国と敵対する国々からぞくぞくと入隊希望者を集めていた。
そして今も、貴族の地位を捨ててリアナズ・ブート・キャンプに参加し、親衛隊に入隊したいという貴族令嬢が後を断たないでいるのだ。
ウェイン・キャンプ王国は今、物凄い勢いで急速に発展している。
しかし、城や軍事施設が作られる事は一切無く、増えているのは「テント」だった。
そう、元の領民や移民もウェインの思想に惹かれ、キャンプ生活による「原点回帰」をしているのだ。
◇◇◇
キャンプ王国では、その日も早朝6時に、朝のトレーニングが始まった。
王国の未開拓だった、だだっ広い高原はきれいに整備され、そこには3000人近い領民が集まって一斉に正拳突きの稽古をスタートさせるのだった。
「よし、お前らっ、今日も気合入れていくぞっ!!」
「「「うおっすっ!!!」」」
3000人の声が地響きのように唸った。
そして、群集の最前列で模範の型を繰り出しているのは、もちろんウェインだ。
「うおらああぁぁああーっ!!」
「「「うおらああぁぁああーっ!!」」」
「気合いがあれば、武器なんかいらねえっ!」
「「「気合いがあれば、武器なんかいらねえっ!」」」
「気合があれば、銃にだって勝てるっ!!」
「「「気合があれば、銃にだって勝てるっ!!」」」
ウェインの言葉を復唱する領民達の叫びと体の動きは、王国の大地を揺るがすほどに響き渡っていた。
◇◇◇
朝のトレーニンが終わった頃。
キャンプ王国の国境付近では、1人の男が荷物を背負って歩いていた。
男は後ろを振り返る。
「ウェイン・キャンプ王国か……、全く、どいつもこいつもはしゃぎやがって」
男は再び国境を目指して歩き出す。
「……あいつら、本当にキャンプの事分かってんのかよ? ウェインがキャンプを知り尽くしてるとでも思ってんのかよ?」
男は1人でブツブツと文句を言いながら歩いている。
「まったく、いつもならリアナが追いかけて来やがるのに、今日に限って来ねえじゃねえかっ!」
しばらくすると、男は立ち止まった。
「ウェインにキャンプを教えたのは俺だぞっ!! あいつには、まだまだ教える事は沢山あるんだ!!」
男バルカスは来た道を引き返し、キャンプ王国に戻っていくのだった。
◇◇◇
太陽が頂点に達する頃、ウェインはキャンプ仲間のエバンスと森の奥でキャンプをしていた。
「いや~それにしても、この王国は急速に成長してますね、ウェインさん」
「そうか? まあ、みんな気合入ってるからな」
「マゼラン王もウェイン・キャンプ王国と同盟を結べて喜んでましたしね」
「ああ、マゼラン王とは考え方も合うし、今度一緒にキャンプする事にもなってるぞ」
「おお、それは楽しみですね~」
2人が談笑していると、目の前の焚き火の上で串肉が焼きあがった。
「お、串肉が食べごろだな」
「ですね! これがまたお酒と合うんですよね~」
2人は串肉とシュワっとするお酒を楽しんだ。
ウェイン達がいい気分になって来た頃、どこからともなく1人の眼鏡をかけた青年が、2人の目の前に現れた。
青年の足取りはふらふらしていて、今にも倒れそうだ。
「ん? どうした青年よ? ちどり足か?」
「……いいえ、お酒なんて飲んでません」
「ほう、……で、君はキャンパーか?」
「……僕はバビントン。人生に疲れた男です」
「ほう、疲れているなら休むといい」
青年バビントンは、静かに腰を下ろすと再び弱々しく口を開いた。
「僕は仕事に失敗し、恋人にも逃げられた、どうしようもない人間なんです」
「ほほう」
「僕はこれからどうしていったらいいか、全く分からないんです」
「なるほど。……じゃあ、とりあえずキャンプをしてみろ」
「……キャ、キャンプですか?」
「ああ、俺もバビントン君の様に人生に破れてこの地に来た。そしてキャンプに救われたんだよ」
ウェインは椅子から立ち上がると、大の字になって寝転んだ。
エバンスもにっこりと笑って、同じように寝転んだ。
バビントンも初めは戸惑ったが、ウェイン達があまりにも気持ちよくしているので、同じように寝転んでみた。
どこまでも続く青空。
静かに森を通り抜ける風の感触。
小鳥達のさえずり。
近くでは、焚き火の薪が爆ぜる音も聞こえる。
そして、ウェインとエバンスのイビキも聞こえてきた。
「……ふふ、ふはははははっ!」
バビントンはいつの間にか笑っていた。
そして彼の笑い声がどんどん大きくなり、ウェインは目を覚ました。
そしてウェインは、バビントンを見てにっこりと微笑んだ。
「キャンプ最高だろ?」
バビントンの心には、いつまでもウェインの言葉が鳴り響いていた。
外れスキル「キャンプ」を授かり追放された領主は、辺境の村でどんな魔獣も素手で仕留める最強のキャンパーに覚醒し、なぜか伝説の名君と呼ばれるようになりました! コマ凛太郎 @komarintaro
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