第40話 独立宣言


「……き、貴様はウェインか!?」

「ウェイン!? ……あのドルヴァエゴに追放されたウェインか!?」


 領主達はウェインの顔を見て驚いていた。


「ああ、そうだよ。俺がウェインだ」


 騒然とする中、ウェインはバルカスとリアナの方へ歩いて行く。


「師匠、あんたはやっぱり最高に素晴らしい人だよ」

「……えっ!?」

「あの後、ステファンと話したんだ。帝国にもいい人間はいるってな」

「は、はあ……!?」

「例えば服屋のチャーリーだ。あいつは外見で人を見下したりしない」

「た、確かにそうでしたが……」

「だから、帝国に乗り込んで戦争するのはやめだ」


 ウェインの「戦争」という言葉に、領主達は驚愕する。


「せ、戦争だと……!?」

「ウェイン、貴様っ、冗談でもそんな事言ったら死罪になるぞっ!!」


 ウェインは言葉を続ける。


「俺は本気だよ。俺の領地に勝手に乗り込んで領民を攫うなど、言語道断だからなっ!!」

「……い、一体何の事だ!?」

「そうか、やはりまだ報告されてないか。まあいい、いずれ分かる。ただそれ以外にも、俺はもうお前らとは考えが全く合わない。お前らのやってる事はクソだ」

「な、何だと言わせておけばっ!!」


 モンヴァイがウェインに詰め寄る。

 ウェインはモンヴァイを睨んで再び口を開いた。

 

「人を人と思わず、餓死させたり、攫ったり奴隷にしたり、そういうのは反吐が出るんだよっ!」

「何を綺麗事を!! そんな生易しい事で世界の覇権を取れると思っているのかっ!!」


 モンヴァイの言葉にウェインは深い溜息をつく。


「……くだらねえな。やはりお前らとは付き合ってられん」

「何だと貴様! 皇帝陛下のお考えを愚弄するのかっ!?」

「くだらねえ物はくだらねえんだよ。だから俺は宣言するぞ」

「宣言だと……!?」


 ウェインは、各領主と宰相を一瞥してから叫んだ。


「本日をもって、我がドルヴァエゴは、帝国から独立する事をここに宣言するっ!!」


 その場にいた人間全てが、ウェインの言葉に驚愕する。


「……な、な、何だとおおおぉぉぉおおおーっ!!」

「ウェイン貴様ぁっ、ふざけた事を抜かすなあぁあっ!!」


 ウェインは続ける。


「ドルヴァエゴは今日から、ウェイン・キャンプ王国に名前を変えるぞ!」

「貴様~、そんなバカな真似をしたらすぐに叩き潰すぞっ!?」


 ウェインはモンヴァイに言い返す。


「やれるもんならやってみろ。こっちからは帝国に攻め込まないが、帝国が俺の国に侵攻するなら容赦しねえぞっ!!」


 ウェインの背後では、リアナとエルサ、そしてステファンも鋭い目付きでモンヴァイや他の領主を睨んでいる。


「……ウェイン、実に立派な宣言だったよ」

「ん? ……フィニアスか」


 知将フィニアスが側近の騎士と共にウェイン達に詰め寄る。

 さらに、衛兵数十人が一気に会議室に入って来て、ウェイン達を包囲した。


「で? この後どうするつもりだい? ここから生きてドルヴァエゴに帰れると思っているのかい?」

「当然帰るさ。みんなが俺達の帰りを待ってるからな」

「ほう、大した自信だね。仮に奇跡が起きてこの場を切り抜けても、帝都には魔竜がいるのを忘れてないかい?」

「……あっ!」


 するとモンヴァイが、勝ち誇った笑みを浮かべて話し出した。


「ウェイン、もう魔竜は竜笛でこの城に呼び寄せたぞっ! どこにも貴様らの逃げ場はないわ!!」

「そ、そうだった……!!」

「愚か者めがっ! 後先考えずに調子に乗りおって!」

「いや、そうじゃなくて、その魔竜なんだけど、間違って殺しちゃった……」

「ああん……?」

「わざとじゃないんだ。俺はそっと自然に返そうと思ったんだけど」

「貴様、何をさっきから訳の分かん事を!?」



 ウェインはステファンに合図する。

 するとステファンは巨大な麻袋をグリフォンの背中から下ろした。


「大変申し訳ないのですが、つい勢い余ってウェイン様は魔竜を殺めてしまいました。」

「はあ……!?」

「まあ、そのまま死体を放置するのも勿体ないので、素材は勝手ながら売却させて頂きました。そしてこちらがその残りでございます」


 ステファンは麻袋の紐を解いて、中身を一同に見せた。


「な、な、何だとおおおぉぉぉおおおーっ!?」

「こ、これは、帝都を守る魔竜の首ではないかああぁぁああーっ!?」


 ウェインは頭を掻きながら、申し訳なさそうに言った。


「いやまさか、魔竜があんなに簡単に死ぬとは思わなくて……。悪いなモンヴァイ」

「う、う、嘘だあああぁぁあああーっ!? 北の大国ソムリアさえも落とした魔竜だぞおおぉおおー!?」


 モンヴァイも領主達も魔竜の変わり果てた姿に驚愕し、絶句した。衛兵達も、帝国の守り神的存在が死んだ事に、激しく動揺している。


 その隙にリアナは、バルカスを担いでグリフォンの背中に走る。

 続いて、エルサとステファンも素早い動きで、あっという間にグリフォンに乗った。


 最後にウェインがグリフォンに飛び乗ると、モンヴァイに叫んだ。


「わざとじゃないからなーっ!!」

「ウェイン貴様ぁっ、わざとじゃないからで、済ませられるかあああぁぁぁあああーっ!!」


 我に返った衛兵が、一斉にウェイン達に向かって銃を乱射するが、リアナが人間離れした動きで反応する。


「うおらあああぁぁぁあああーっ!!」


 リアナはオリハルコンの剣で、殆どの銃弾を叩き落した。

 数発銃弾を浴びるが、オリハルコンの鎧が難無くそれを弾き返す。


 ウェインはポカンとリアナを見ていた。


「……こいつもう最強じゃねえか、ステファン?」

「そうかもしれませんねぇ……」


 ウェイン達一行を乗せたグリフォンは、大空高く舞い上がっていくのだった。

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