第39話 領主会議


 皇帝の居城では、緊急領主会議が始まっていた。


 帝国皇帝の姿こそないものの、宰相のザビヌルを中心に各領地の名だたる領主が集まっている。


 その中でも一際存在感の強い男が2人いた。


 1人は、類まれなる知能を持ち、戦略の王とも呼ばれる知将「フィニアス」。

 彼の特徴は、肩まで伸びた銀色の髪と、物事の深淵まで見ているような思慮深い瞳だ。


 そして、もう1人は、フィニアスの隣に座する竜帝とも呼ばれる「モンヴァイ」。

 彼の特徴は、鼻の下と顎に蓄えれた髭と、武人特有の常に獲物を狙っている様な鋭い目付きだ。

 


 彼ら2人以外にも、豪傑、狂人、などと呼ばれる領主5人がその場に集まっているのだが、その百戦錬磨の猛者達が今、会議場に入って来たたった1人の男の姿に釘付けとなっていた。


 男の名はバルカス。

 白いバレリーナの衣装に身を包み、股間からは白鳥の首がそそり立っている。


 一言でいうならば「変態」である。


 会議場の入口には、まさしく1人の変態が立っていたのだった。



「……な、な、何だ貴様はああぁぁああーっ!?」

「こ、ここがどこだか分かっているのかっ!?」


 バルカスは猛将達の圧倒的な雰囲気にのまれ、言葉を発する事が出来ない。


「何とか言ったらどうなんだっ!? 貴様あぁあーっ!?」

「黙ってるなら、すぐに斬り伏せるぞっ!?」


 その場は騒然となるが、1人の女戦士が声を張り上げた。


「うるせええええぇぇぇえええーっ!! 雑魚はすっこんでろっ!!」


 会場に響き渡るリアナの声。

 瞬時に騒然とした会場が静まり返った。


「……帝国皇帝はどいつだ? ああん!?」


 リアナが男達の顔を1人ずつ見ている。

 すると1人の男がゆっくりと口を開いた。


「随分と威勢のいいお嬢さんだねぇ」

「……何だコラ、てめえが皇帝か!?」

「僕はフィニアス。皇帝陛下ではないよ。陛下はこの会議には参加されないんだ」

「ちっ、しょうがねえな。じゃあお前ら雑魚共で妥協しとくか」


 リアナの言葉に各領主達の罵声が飛び交うが、フィニアスが手でそれを制した。


「この場で何かするつもりかな、威勢のいいお嬢さん?」

「まあな。でもそれは私じゃない」

「……ん? では誰かな?」

「領主代行の殿が、お前らに有難いお言葉を与えてやるぞ!!」

「……殿?」



 

――――バルカスは思った。


 リアナの奴、とうとう「殿」にまで省略しやがってっ!

 ……ていうか、そんな事はどうでもいいんだ!!


 言えるか!?

 この緊迫した場面で、百戦錬磨の猛将達がひしめくこの場で!


「あなた達に宣戦布告します!」


 って言えると思うのかっ!?


 もう無事に帰れるわけがねえっ!

 今の段階で死亡は確定だが、宣戦布告までしたら想像を絶する拷問に合うに決まってる!

 

 ……ど、どうしよう!?

 土下座でもして命乞いするべきか!?




 バルカスがそんな風に考えていると、リアナから催促される。


「さあ殿、こいつらクソ共に早く言ってやりましょう!!」

「……い、いや、そ、その……」

「さあ、遠慮しなくていいんですからっ!!」

「…………」


 その場にいる全ての人間の視線を集めて、バルカスはしばらくしてからようやく口を開いた。


「……わ、私はずっと戦場で戦って来ました。傭兵として沢山の人を殺して来ました」


 予想外のバルカスの言葉に、リアナも帝国領主達も唖然とする。


「で、でも、本当は殺し合いなんて嫌いなんです! 平和な世の中で穏やかに暮らしたいんです! 誰だってそう願ってるに決まってるんです!」

「殿……」

「……だから、もう戦争なんて、戦争なんてやめましょうよっ!!」


 バルカスは泣いていた。

 それを見ていたリアナも、いつの間にか泣いていた。



「ぶっ、ぶははははははーっ!! 何を言うのかと思ったら、何だその女子供の様な情けない言葉は!?」


 竜帝モンヴァイが、バルカスを嘲るような笑いを会場に響き渡らせた。


「もう茶番は終わりだっ!! 衛兵よ、その珍妙な2人をすぐに捕らえるのだ!!」


 モンヴァイの言葉に、衛兵達が走り込んで来る。



――――するとその時だった。


 会議場の大窓のガラスが一斉に割れて、大型の魔獣が飛び込んで来たのだった。


「……て、敵襲かっ!?」

「さ、宰相殿をお守りしろっ!!」


 会議場内はパニックになるが、やがて大型の魔獣グリフォンから3人の人間が降り立った。


「あ、すまんすまん。会議終わっちゃうかと思って、急ぎだったもんで……」


 グリフォンから会議場に降り立ったのは、ウェインとエルサ、そしてステファンだった。


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