第38話 いざ、宣戦布告!!
帝都にある服屋「バードランド」のVIPルーム。
そこはまるで宴会場の様になっていた。
「ウェイン、大好きだぞ~」
「ん? 何だ酔っ払ってるのかエルサ?」
酒をしこたま飲んだエルサは、酔が回ってウェインに抱きついている。
「エルサ、またドキドキして来た!」
「何だ? 心臓でも悪いのか?」
するとエルサは急に立ち上がる。
「……ウェイン、勝負だっ! お前を倒す!!」
しかしエルサは、VIPルームの観葉植物に向かって叫んでいた。
「うおおーっ! ウェイン覚悟!!」
エルサは観葉植物に襲いかかるが、彼女も一緒に豪快に倒れてしまった。
「まったく何やってんだか、あの娘は」
「まあいいじゃないですかリアナさん、さあもっと飲みましょう!」
ステファンは、自分の革靴をリアナのグラスに注ごうとしている。
「あら、それって幻の銘酒って呼ばれているやつじゃない!」
リアナとステファンもかなり酔っていた。
――――そんな中、バルカスは必死に考えていた。
くそ、みんな気持ち良く酔っ払いやがって!
俺もかなり飲んでるけど、ちっとも酔わねえじゃねえかっ!
……でもこれはチャンスだ!
ウェイン以外はみんな泥酔してるんだからな。
頃合を見計らって逃げ出してやる!
ちょうど帝都に来たんだからちょうどいいぜ!!
バルカスは酒を飲みながらも、逃げ出す機会を伺っていた。
「あ、そろそろ領主会議が始まってる頃だな」
ウェインが時計を見た。
「師匠、悪いんだけど、ちょっと宣戦布告をしに行って来てくれる?」
「……へ!?」
「宣戦布告だよ。手間かけて悪いんだけど。まあ優勝もした事だし」
「わ、私1人でですか……!?」
「うん。悪いんだけど急ぎで」
――――バルカスは思った。
なんか、すげえ軽くねえか!?
宣戦布告だぞ、あの大陸の覇者の帝国に!!
まるで「ちょっと大根買って来てくれる?」
みたいなノリで言いやがったぞ、この男はっ!?
ん、待てよ! でもこれはチャンスだぞ!
1人になって逃げられるじゃねーかっ!!
「いや、俺も一緒に行こうと思ってたんだけど、エルサが離してくれなくてな」
バルカスが見ると、エルサは再びウェインの腕に抱きついている。
「そ、そうですか。じゃあ1人で行って来ますね!」
「あっ! 私も一緒に行きま~す! ちょっと酔い醒ましになるかも~」
しかし、リアナが宣戦布告のお供に名乗りを上げた。
「あ、いや、リアナさん! 宣戦布告は私1人で十分ですからっ!」
「な~に言ってんれすか~! 総殿をお守りするのが私の役目じゃないれすか~!!」
「……そ、総殿??」
「ああ、総司令官殿だと何か長くて面倒だから『総殿』。呼びやすいれすよ~!!」
バルカスは「省略してんじゃねえよ!」と思いながら、ウェインの方を見る。
「そうだな。流石に師匠と言えど、1人じゃ危険かもしれないから、リアナを護衛に付けるか」
「任せてくらさい、ウェイン様!!」
「よし、任せたぞリアナ。時間おしているから、すぐに向かってくれ」
「いえっさー!!」
こうしてバルカスは、バレリーナの衣装で帝国に宣戦布告する事になったのだった。
◇◇◇
かつて、ゴルネオ率いる帝国兵3000人を打倒したウェイン。
しかし、同じ帝国の領地に攻め込んだばかりか、3000人の兵士を失ってしまったギルトンはそれを皇帝や宰相らに報告せずに隠蔽したのだった。
その為、ドルヴァエゴの領主であるウェインには、領主会議の案内状が普通に届けられていた。
なのでその案内状さえ城の衛兵に見せれば、すんなり会議に出席出来てしまうのだった。
そして今。
バルカスと護衛のリアナは、帝都にある皇帝の居城に来ていた。
「ご苦労様ね~。 これ領主会議の案内状だから」
「は、はあ。 ……う、後ろの方がドルヴァエゴの領主様でしょうか!?」
「あ、領主じゃないんだけど、領主代行って感じ?」
「感じ、と言われましても、その格好では……」
城の衛兵達は、引きつった顔でバルカスの衣装を凝視している。
バルカスは当然、バレリーナの衣装のままだ。
おまけにその股間からは、元気よく白鳥の頭がそびえ立っている。
冷や汗が止まらないバルカス。
「い、いや、その、この格好には深い理由がありまして……」
バルカスはしどろもどろに、衛兵達に説明する。
「てめえらっ! 総殿の一張羅に何か文句でもあんのかっ!?」
「い、いえ、文句などありません、しかし……」
「しかしじゃねえだろがっ! 総殿はこの衣裳に誇りを持ってらっしゃるんだぞ!」
「ほ、誇りですか……!?」
衛兵は再びバルカスの方に視線をやる。
そこには珍妙な格好の中年男が1人立っている。
とてもじゃないが、領主代行が務まる人間には見えない。
こんな怪しい男を領主会議に通してしまったら、問題にならないだろうか?
自分は厳罰を受けるのではないか? ――――という不安が衛兵を襲う。
しかし、その怪しい男の護衛に付いているのは、名のある女戦士に見える。
何しろ、オリハルコンの鎧を纏い、そして背中には白銀のマント付けているのだ。
態度はデカイが、彼女には威風堂々とした風格がある。
衛兵達がそんな風に色々と模索していると、イラついたリアナが、オリハルコンの剣に手を伸ばした。
「ここを通すのか、通さねえのか、はっきりしやがれっ!!」
「ひ、ひいぃぃいーっ!!」
「ど、どうぞお通りくださいませええぇぇええーっ!!」
こうして、オリハルコンを纏った女戦士と、バレリーナの衣裳を纏った変態オヤジは、皇帝の居城へと入っていくのだった。
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