後日談
「
「ジョンくん! 久しぶり!」
有島家の自宅に、メイスンの甥、ジョンが訪ねてきた。今年で中学二年生になる時雨の息子、輔と彼は一年前にメイスンと時雨が「お化けダイコン事件」解決のために共闘した際知り合った。同い年の二人は意気投合し、それ以来、二人は刎頸の友といえるような間柄になっていたのである。二人の友情は、大人――メイスンと時雨にとって、心温まるものであった。
「そういえば、千秋クンはどうしてますかねぇ……」
ジョンを伴って有島家を訪れたメイスンは、出されたお茶を飲みながらテーブルの向かいの時雨に語りかけた。
「ああ、彼か……例の製薬会社に勤めてるのは変わらないみたいだけど、俺にも最近どうしてるかは分からないんだよね……そっちこそ、桜さんとは?」
「桜サンですか? 彼女とは何もありませんよ」
「へぇ、そりゃ意外だった。彼女はメイスンに気がある風だったもんだから……」
「ワタシは外国人ですし、自衛隊で立場ある彼女とプライベートなお付き合いしたらあらぬ疑いをかけられちゃうでしょう? もし彼女がその気だったとしてもオコトワリさせていただくでしょうね」
メイスンは茶をぐぐっと飲み干した。
「別に自衛隊員でも国際結婚は許されてるって聞いたぞ」
「いいですか、時雨サン。呉起の逸話をご存知ですか?」
「ゴキ? 黒くて平べったいあの虫?」
「いいえ、コックローチの方ではありません。エンシェントチャイニーズジェネラル……古代中国の将軍の話です」
「へぇ、歴史詳しいのか……」
「彼が魯の国にいた頃、隣国の斉の国が軍を発して魯を攻めました。当時の魯の君主であった元公は呉起を将軍にして迎え撃たせようとしましたが、周囲の人々は言いました。「呉起の妻は斉の人である。だから、彼はきっと斉と内通する……」とね。そう陰口を叩かれていると知った呉起はどうしたと思います……」
「うーん……妻が敵国人、か……どうしたんだろうな……」
「何と、呉起は妻を殺害してしまったのです」
「は?」
時雨は口に含んだ茶を、危うく噴き出す所であった。
「そうして疑いを晴らした彼は、魯の将軍として斉の軍を迎え撃ち、大いにこれを打ち破りました……。これは紀元前中国のお話で、現代にそのまま当てはめることはできません。ですが、他国人との婚姻、とはそういうものだと思っております……」
「そりゃ大袈裟だと思うんだがなぁ……」
「別にワタシが桜サンを殺したり、桜サンがワタシを殺したりする、と言いたいわけではありません。あくまでワタシ個人の考えとして、夫婦の関係に国際政治が影響を及ぼすこともある、ということです」
メイスンの話を、時雨はちっとも理解できなかった。だが、彼がそう思ってるのであれば、桜と彼が一緒になることはないのであろう。
***
時雨と輔はジョンを伴って、海釣りに来ていた。三人の釣果はまずまずであった。
ふと、何かの気配を感じた輔は、後ろを振り向いた。海面のすぐ下で、何か大きなものが蠢くのを、彼は見たのであった。
――あれは、何だろう……クジラか何かかな?
気になったものの、それが再び姿を見せることはなかった。
アカピッピミシミシガメVSアヘガオザリガニ 武州人也 @hagachi-hm
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