あさきゆめみしゑひもせす

snowdrop

夏休み

 柔らかな枕の感触に顔をうずめて目を閉じていると、見えてくる景色がある。

 がんがらがんのがらあんと物静かでミルクのような柔らかな白い空間が広がるばかりだった。

 妄想の枯渇が生み出す幻影か、あるいはこれこそ妄想かもしれない。

 決めつけるのは早計だ。

 妄想の定義によれば、「明らかな反証があっても確信が保持される、誤った揺るぎない信念」とある。加えて「妄想を持つ本人には妄想であると認識できない場合が多い」という。

 なるほど、妄想かそうでないかの判断はわたし自身にはつけられない、どちらも可能性としてはあり得る状態だ。

 可能性、という言葉は便利だが言葉に酔えば、周囲の意見に流されて自分の意見を持てず、いつまでも白か黒かを決めかねているだけの怖じ気を育てかねない。

 これが妄想と仮定すると、妄想しない状況とはただただ真っ白な空虚が広がる世界だと認識しているのかもしれない。

 だとするなら「わたし自身は妄想していない」と妄想しているということになる。

 妄想していない妄想という矛盾が成立するのは、夢の中だけ。

 もし夢を見ていないのなら迷走しているに違いない。

 どこかで妄想していない自分を信じたがっているから、否定したがるのだ。

 瞑想で雑念が取り払われたと思いたいのだろうか。

 コロナ禍による自粛生活からくるストレスが原因かもしれない。

 夢ならいいが、頭の中のどこを見渡してもなにもない空虚さは、そぞろ恐ろしい。

 何も考えず眠れば疲れがよく取れると、どこかで期待しているのかもしれない。

 最近は首、肩、腰に鈍い痛みを覚え、偏頭痛まで併発してくる。

 前線通過による気圧変化のせいかもしれない。

 体が重く、ベッドから起き上がるのも億劫になっていく。

 布団と同化すれば疲れが取れるなら、ずるずる惰眠を貪るのも吝かではない。

 横たわっていると、体の奥から疲れが滲み出て辟易してくる。

 寝返れば、日差しもなく真っ白な雲に覆われた空が広がるばかりだった。

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