第八話 三人の老賢者

キャンサーの槍と俺の錬成によって出来上がった双剣がぶつかり合う。槍を変幻自在に速く操り、俺の双剣による猛攻を凌いでいる。


俺の愛剣(錬成じゃない方)は耐久性に優れ、そんな簡単には壊れない。一方、錬成で出来上がった愛剣は、諸刃の剣。


「ほほう。他の勇者とは、一味違うようだな……。なかなかにしぶとい。だが、我の槍術に勝る者はないと――言ったはずだ!」


キャンサーは器用に俺の剣たちを打ち払う。そして、


「我が秘伝のスキル――。ゴッド・トルネード!!」


少し後退りをしてからキャンサーは槍をフル回転させる。そして、強い回転によって徐々に風が槍の回転してるところに形成されていく。


その風は大嵐となり、いや、大嵐というよりは、竜巻だ。ゴウッとうねり音をあげた竜巻が俺に太い柱のようになって勢いよく迫ってくる。


(まずい。あれは、かなりやばい……)


しかし、俺にその大技は当たらずに終わった。なぜ、当たらなかったのか。それは明白だ。


後ろで戦いの成り行きを見守っていた二人の綺麗な女性たち。そう、エルザと奴隷が力を合わせたのかは不明だが、バリアを張ってくれていた。


合体技なのかもしれない。だって、俺だけでなくそのバリアは俺から広範囲の領域を覆っている。


簡単に防がれ、キャンサーは絶句していた。


「馬鹿な。ありえん。我の秘奥義を防げる者など……。まずは、あの二人から始末せねば」


二人はまだ、バリアを張り続けているため身動きが不可能。ここでキャンサーを見逃せば、彼女たちは一方的に攻撃を受けてしまう。


別にエルザならば、受けてもらって構わないのだが――。俺の奴隷の少女だけは、なんとしても死守しなければならない。だって、誓ったではないか。


――一緒にいると。


「てめぇは止めてやる!!!」


キャンサーが動き出したのと同時に、俺は双剣を構えてキャンサーの前に立ちはだかる。


黒装束の防具が役に立ったようだ。瞬時にキャンサーの目の前に立つことができた。


「ちっ、速いな。ふふふふふ。面白い。貴様の度胸に免じて、彼女たちは狙わないでおこう。だが、貴様だけは――生かしておけん」


鋭い突きが、俺に迫る。それを辛うじて双剣で防いでみせる。


そして、一つ一つの剣から眩い極光が出始めて、俺の双方からセイクリッド・バーンが発動される。


「!?しまっ……」


最後まで言うことができず、キャンサーは腹に穴を開けるほど攻撃が貫通し、遠くへとぶっ飛ぶ。


飛び終わる前に、咲、猪野の順番でザクザク斬っている。これは、勇者のすることじゃないな、と苦笑せずにはいられない。


「……終わった、のか……?」


俺は首を傾げ、事の成り行きを待つ。キャンサーが飛ばされたところからは、なにも出てこない。むしろ、平穏そのもの。


魔王軍幹部であるキャンサーに対し、レベルたったのまだ5である俺たちが、勝ち越した。これは、この世界の人々の喜びとなる。


「……勝った。勝ったぁあああああ!!!」


咲はよっしゃあ!と、腕を上に挙げてぐっと拳を作っていた。ガッツポーズというやつだろう。ついで、猪野も一安心の安堵をついている。


「これで一先ずは、魔王軍も攻めて来ないだろう……。はぁ……。僕たち、無事なんだね」


そして、エルザの隣に放置してしまった奴隷の少女も、喜びを顕にして俺の腰に抱きついてきた。


「サカノ様ーーーー!!!!やった、ね……。魔王軍に、勝った……。サカノ様は、誰よりも……強い……」


涙で目が潤っている。喜びすぎじゃないか?これはまだ、ゲームでいうところの序盤だぞ、と俺に言い聞かせる。彼女にも言い聞かせたかったが、この世界の住民なのでわからないだろう。


俺は少女の頭にそっと手を置いてなでなでする。


「さすがにそれは言い過ぎかな……。まあ、嬉しいけど。強敵を打ち倒したことには変わりないから。あとは、そうだな、帰ったら、君が自分の名前を忘れているのなら。付けてあげる」


こうして、アナザーを奪還した俺たちは、地下に生き残っていた人々を地上へ戻し、これからに備えて兵士たちの訓練をもっと充実させるのと、戦力の増強――。


そして、街のさらなる発展をするよう言っておいた。


謎の空間にて、魔王軍の現在の統治者と思われる三人の老賢者が、話合いをしていた。


『キャンサーめ……。死におって。まあ、死んでくれたから魔王復活のにさせることができるな』


『はっはっは。それは愉快だな、アシュレイよ。ところで、勇者たちの戦闘データはばっちり登録できた?』


アシュレイと呼ばれた赤髪の昔から鍛えているのか、凄い美しく、女たちを虜にするような筋肉を持つ老賢者は、我も聞きたいとばかりに、向かい側にいる者に聞き入っている。


『うーむ。ばっちりとは、いかないが。多少なりとも撮れている』


『はっは。さすがだね、キャロ』


『そういうお前は、なにか収穫があったのかい?ソーランよ』


三人の老賢者は、円形のテーブルにてトランプのようなカードゲームで遊んでいた。これは、以前のが持ってきた別世界の遊び。


『勇者たちの青ざめた顔を見てみたいわい』


『なら、さらに強い幹部を送り込むしか……』


こうして、さらなる陰謀が襲おうとしていた。

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無能勇者。―召喚された異世界で復讐を― みゅ @001224

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