余計な雑味や寄り道のない王道そのもののジュブナイル

 祖父のような偉大な狩人を目指す少年と、彼のもとに現れた絶滅したはずの大烏が、共に戦い相棒となるまでの物語。
 ハイファンタジー、それもどこか児童文学のような趣の、爽やかで真っ直ぐなジュブナイルです。少年の冒険譚、巨大な怪物から村を救う小さな英雄譚であり、また少年ふたりの友情物語でもあったりして(大烏の方も幼体なので)、いろいろたまらん要素がてんこ盛りでした。
 世界設定、というか『獣』の設定が好きです。要はモンスターなのですが、でもいわゆる『魔物』としてのそれではなく、文字通りの獣すなわち「巨大な野生生物」といった趣の存在。幻想生物ではなく架空の動物としてのドラゴンやベヘモトと、そんな恐ろしい奴らの隣での生活を余儀なくされる人間という種。少年の夢である『狩人』とは、別に悪しきものを成敗する勇者ではなく、ただ人間が人間として生活していくために必要な職能のひとつである、というのがはっきり伝わってきます。
 またこれらの設定面での土台固めがあればこそ可能な芸当だと思うのですが、登場人物の役回りの割り切り方、すなわち多くの大人たちがはっきりモブ役に徹しているところが最高でした。帰るべき家であったり、夢を理解してくれない口うるさい存在であったり、しかし戦力としては事実上の戦力外であったり。徹底して『主人公の物語』として見た側面のみが描き出されているところ、そしてそれ以外の面はただ書かれていないだけで決して存在しないわけではないところが、このお話を雑味のないものに、つまり王道らしくしているように感じます。
 あとはもう言わずもがな、こういうお話はいいものです。目に見えず、また簡単に言葉にも言い表せない関係性、相棒としての信頼のようなものが築き上げられていく過程の見える、実に真っ直ぐで心地の良い物語でした。