第5話 努力しないと実は結ばない
「努力はいつか実を結ぶよ?」
「……そんなこと、どうして分かる?」
こいつは不思議だ。まるで、なにを言っても自分の信念を曲げなかった。
昔の私みたい。
でも、そんなんじゃいけない。信念はときに曲げないと、みんなから嫌われる。
「……分からないわ。」
「なら……!」
「でも、わかるの。努力は実を結ぶのか分からない。けど、努力をしないと実は結ばないわ。だから、結ばれるそのいつかまで頑張ればいいのよ。」
知っている。
知っているさ……
でも、そのいつかはいつ来るっていうんだよ。
いつまで待てばいいっていうんだよ。
「……いつかはいつくるんだよ?」
「……分からないわ」
「なら、なんでお前は努力できる…??」
「それはね……あなたが言っていたじゃない。」
「私が……?」
私は何を言ったんだ?
私は、変なことを言った覚えはないはずだ。努力は報われないとか、常識的なことしか言った覚えはない。
今の私を変えるような言葉なんて言った覚えはない。
「あなたは、昔こう言ったのよ。『努力しなさいとか叫んでいるやつって大抵努力してないから気にしないでいいんだよ』って。だから、私は努力しなさいとかなにを言われても頑張ってこれたの。」
それは、昔言った……こいつを慰めるためにかけてやった言葉。
そうとは限らないけど、努力が報われないと言っていたお前のために……かけてあげた。
でも……
「それは、冗談なんだよ?」
「……知ってるわ。でも、その言葉で勇気が出たのよ。」
そんなこと……
嘘だと知っていながら、その言葉でここまで努力してこれたというのか?
ありえない……ありえない……
「……本当だよ?いつかはいつくるのかなんて分からない。けど、必ずいつかは来るんだから……」
その瞬間、急にこいつは私に抱きついてきた。暖かかった。
「くるの、かな……?」
「えぇ、来るのよ。」
「……………………ありがとう……」
どうしてかは分からない。でも、その温かさが私の尖った部分を溶かしていくようで。心の中に太陽が現れて閉じていた心を開いていくようで。
なぜか涙が溢れていた。
嬉しかったのだ。そう言ってもらえて。
言ってほしかったんだ。そう。
「ごめんね、今まで。」
私は、こいつ………いや、あなたの前でそう囁いた。そして、あなたに答えるように私からも手をあなたの背中に伸ばした。
努力は陰でするものだと人は言うけれど。 @hina0303
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます