【短編】20years ago

榎本奏江

20years ago

キミに一つだけ、伝えたいことがあるんだ。

それは、とても悲しいことだけど、本当のことだからちゃんと聞いてほしいな。

それはね、キミの大切なおじいちゃんが後二ヶ月で居亡くなっちゃうの。

二度と会えなくなっちゃうの。

今はよく分からないことだと思うけど、本当のことだよ。

ずっと、ずっと、さよならすることになるの。

だから、キミに一つだけ伝えたいことがあるんだ。

一人でお留守番していることよりずっと、ずっと偉いこと。


それはね、今日から毎日おじいちゃんのお見舞いに行ってほしいんだ。

キミの笑顔を毎日おじいちゃんに届けてほしいの。

おじいちゃんはね、キミの笑顔が一番大好きだから、きっと凄く喜んでくれるよ。

よく来てくれたね、会えて嬉しいよ。って言ってくれて頭を優しく撫でてくれるよ。

凄く嬉しいよね。一人でお留守番していることよりもとっても偉いことなんだ。


だから、私とのお願い。


おじいちゃんが居亡くなっちゃうその時まで、笑顔を見せてあげてね。

きっと、キミの想い出にもなるよ。

私が言うんだから間違いない。

私はもう、おじいちゃんには会えないけれど、キミならまだいくらでも会えるから。

たくさん、たくさん想い出を作ってあげてね。

なにより未来の自分が後悔しないように、悲しまないようにしてほしいんだ。

あの日の私はバカだったから、一人でお留守番することがなによりも偉いことだと思っていた。

会いたいと思ったときは我慢しないで、意地張らないで、素直に会いに行ってほしいんだ。

後になって気づいたんだ。それよりも大切なことがたくさん、たくさんあったことに。

だから、キミには後悔してほしくない、悲しませたくない。

だから、一つだけ伝えるね。


『おじいちゃんとたくさん想い出作って』



それともう一つ、伝えておくね。

二つになっちゃうけど、気にしないで。

これも大切なことだから聞いてね。

キミのとなりに居る、みに子ちゃん。

みに子ちゃんの一番の友達で居てあげてね。

みに子ちゃんの一番の友達になれるのは他でもない、キミだけだよ。

大切に、大切に傍に居てあげてね。

みに子ちゃんはとても優しい子だからきっとキミの気持ちに応えてくれるよ。

キミが辛くなったとき一番の支えになってくれるよ。

だから、みに子ちゃんが辛くなったときは逃げないで、向き合って、支えてあげて。

一番の友達なら、できるよね?


『みに子ちゃんと言う一番の友達を大切にしてあげて』



 これからキミの前に起こること全ては良いことばなりじゃない。大変なことや、辛いこと、悲しいこともたくさんある。

 でもね、そう言うときは必ず誰かが傍に居ることを忘れないで。

 キミを支えて、見守ってくれている人がたくさん居ることを忘れないで。

 キミの周りには優しい人がたくさん居て、キミが辛くなったとき助けてくれる人が居ることを忘れないで。


 おとうさんやおかあさん、おばあちゃんや弟のアイツだって、困ったときは助けてくれるし、新しいお友だちや時には知らない人だってキミを見守ってくれている。

 そして、いつかキミを一番に愛してくれる人が現れて、キミが人生で一番辛くなったときに支えてくれる人がいるんだよ。

 大丈夫。キミは一人になることは絶対にないよ。だから、安心して。

 だからその分、キミを支えてくれた人が辛いときや、悲しいときは側に居てあげてね。

 無理に言葉をかけなくてもいいんだ。側に居るだけで良いんだよ。

 話を聞いてくれるだけで良いんだよ。それだけで、気持ちは変わることがあるから、見て知らないふりだけはしないでね。

 手を指し伸ばさなくてもいいから、側に居て寄り添ってあげてね。


 キミの周りにたくさんの友達や、大切な人、愛してくれる人が居る頃にはおじいちゃんもみに子ちゃんも居亡くなってるんだ。

 悲しいけど、本当のことだよ。

 でも、心配しないで。きっと、おじいちゃんもみに子ちゃんも必ずキミのことを見守ってくれてるよ。


 だから、辛くなったとき、悲しくなったときは空を見上げて。


 遠い空の向こうに居るおじいちゃんやみに子ちゃんのことを思い出してみて。

きっと、見守ってくれてるから。

 大人になって、変わっていくキミを二人は変わらずに見守ってくれているから。


 遠い未来でキミを支えてくれる力になるから。

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