第17話


「回復魔法、ですか」


 この世界において、回復魔法はレア度が高い。

 自分にかける分には良いが、他者へ回復魔法はかけることが難しいのだ。


 そもそも、自分へかける回復魔法を習得できる者も限られてくるのだが。


「儂は良いと思いますぞ。


 殿下も持つ、【王将】の力。殿下がどう発現されるかは分かりませんが、他者へ魔法をかける難易度は低くなっているのは確か。


 それに、目覚めの魔法。あれをかけて頂いたとき僅かですが疲れが消えたと感じました。


 殿下には回復や癒しの魔法の適性も有ることでしょう。


 試してみては如何ですかな」


「はい」


 しかし、回復か。イメージは良いんだけど怪我とかしてないしな。

 最初に使う回復の魔法。


 何かに特化するのではなく、回復する、癒すという力を汎用的に。


 眠りによって齎される癒し。

 いつも眠るときに感じているイメージを、より癒す、治れというイメージで魔力に籠める。


 取り敢えず自分にかけてみる。


 …………


 ……………………


 …………………………………………


「おっ。からだがかるい」


 きちんと眠ったとき程ではないけれど、息切れも完全に治り、さっき動き回った疲れが取れている。


「発動されたようですな。しかし怪我の治療などに使えるかは…………。


 ううむ。メア殿。どうだろうか」


「…………恐らく大丈夫では。まだ早いとは思いますが、殿下ならば」


 また軽く駆け回っていると、2人が何かを話していた。


「殿下。これから、儂は儂の指に小さな傷を付けます。


 儂の傷を治して頂けますかな?」


 ええぇ? 傷を作ってまで治すの?

 いや、そんなことするの前世の小説では一杯いたな。


「はい。でもなおしきれなかったら」


「その時は自分でかけますぞ。少しですが回復魔法は扱えるのです。


 自らだけですがね」


 どこか自嘲の含まれた声音。

 回復魔法を願っていたと言っていたし、昔何か有ったのだろうか。


「では、おねがいします」


「畏まりましたぞ」


 レイル先生はそのぶっとい指に、魔法で作り出した針を軽く刺した。

 僅かに血が出る。


 まずは先程の、汎用回復魔法をかける。


「いやしをここに」


 指に触れ、魔法を流し込む。


「おお。傷が治りましたな。


 次はもう少し深めに刺してみますぞ」


 レイル先生も協力してくれる。

 しかし、深く刺しすぎじゃないですかね。


「…………治しきれません」


「いえ。傷は浅くなっております。


 儂の知る回復魔法なら、深い傷にはそもそも魔法が発動しないのですが。


 殿下の魔法は、深さによらず効果を発揮するのでしょうかな?」


 癒しのイメージが汎用的だったからかな。

 今度は、刺し傷に特化した魔法のイメージを。


 皮膚や筋肉、血管。回復する過程や、その材料。より繊細なイメージを魔法に籠めて、流し込む。


「おお! 完全に治りましたな! 殿下には回復魔法の才が! 適性が! 確実に有りますぞ!」


 ガバッ! っとレイル先生のぶっとい腕に抱えられ高い高いの格好にさせられる。

 嬉しいですが揺するのは止めてください、酔います。


「タチク殿。殿下が酔いそうです」


「おお!? すみませぬ殿下。


 つい気が高ぶりまして。いかようにも罰し下さい」


「いっ、いや。だいじょぶですけれど」


「ありがとうございます…………。


 殿下、回復の魔法を伸ばしていくこと。

 改めて儂はすすめますぞ。それはご自身の安全のみならず、民草への癒しにも成り得ますからな」


「はい。のばしていきます」


 回復魔法が使えるというのは、強みになるしね。

 誰も彼も治したい、という聖人染みた考えは無いけれど。

 自分と、味方してくれる人を癒す。

 自分を取り巻く状況を改善させる手段の1つ。そんなものだ。


「しかし、回復魔法は儂には指導できないですからなぁ。


 儂に出来るのは、魔法を使う基礎。

 そして戦闘の基礎を手解きする位です。


 ううむ。神殿にも声をかけてみますかな。

 回復魔法は神殿が強いですし、ノウハウも有るでしょう」


「しんでん、ですか?」


 神殿については多少は知っている。

 この世界に実在する複数の神を崇める集団。

 また、独自の戦力を持ち世界各国に支部がある。

 そして宗教国家も存在する。


 しかし、王族の権力と、単純な戦闘力が強いため、神殿の権力自体はこのオーレスト王国では強くない。


 強くはないが、回復魔法を始めとして、医術や薬術に精通し、医療関係者を多く保有しているのだ。


 王家はその知識や回復の力を神殿から受ける。その代わりに、布教活動を認める。

 ただし余計なことしたらぶっ飛ばす、といった力関係である。


 まぁ、今王家と神殿の関係は良くないらしいけど。どこぞの王がトチ狂って神殿関係者を殺そうとしたらしいし。


 ええ現在幽閉中の父親だよこんちくしょう。


 そこに頼んで、上手くいくのだろうか?


「ふむ。事情は知っているようですな。


 民草の医療関係は、神殿にある程度依存しております。

 例えば、殿下が将来回復魔法を使って民草を癒したとしましょう。


 そうすると、神殿と要らぬ摩擦が生じるのです。


 しかし、予め殿下と神殿が繋がっておくと、話が通じやすいのですよ。


 まぁ、面倒くさい政治の話ですがね」


 王家の力は強いので、神殿なんて蹴飛ばせる。

 しかし、そうすると国民への医療関係の質、量がガタ落ちする。


 国民なんて知ったこっちゃねぇ! とも言えるのだが、レイル先生は民を守る貴族の鑑である。


 気にしちゃうよね。


「何より、神殿によって殿下の回復魔法がより良くなるのなら、儂は話をしたいと思います。


 勿論、さまざまな軋轢を生まぬよう配慮は致します。


 儂は神殿関係者とも繋がりがありますし、王家とも繋がりがありますので、なんとでもなりますからな」


 ふーむ。神殿かぁ。宗教関係は色々有りそうだけれども。

 メアにアイコンタクトすると、殿下のお好きに、と若干好意的な反応が返ってくる。


「わかりました。うけたいとおもいます」


「畏まりましたぞ。本来、最初の指南は明日まで行う筈でしたが、明日は神殿に赴きます。


 殿下は既に魔法の基礎は出来てますからな。


 今日の残りは、簡単な戦闘の手解きをしましょう」


 戦闘かぁ。

 怖いけどきちんと受けないとなぁ。

 将来、戦闘三昧にならないように人生設計を立てようとしてるけど、出来るに越したことはないし。




 そして、真面目に受けといて正解であったと、割りと早い内に思うのであった。




「さあ殿下! もっと速く、もっと正確に逃げながら魔法を撃ち込むのですぞ!」


 と、土人形に追いかけ回されている今の僕にそんな余裕はないのだった。








 ──────────




 もしもゲーム風表記をしたら。


【メア】

 ・年齢:??

 ・立場:オーレスト王国、第7王子専属メイド。生家から勘当され名字なし。

 ・称号:読心メイド。大外れ。


 ・保有魔力:上位平民級~下位貴族級(上位平民級より)


 現在、所有している能力。


【思考感情受信能力】


 現在、使用可能な魔法。


【魔力弾】

【身体強化】


その他各種使い物にならない魔法。

受信能力によるイメージ力補正により使用は出来るが、適性も無くほぼ使い道も効果も発揮しない。


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微睡み王子はお眠り中( ˘ω˘)スヤァ AKIRA SONJO @akirasonjo

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