第14話

 雨が降っている、柔らかな、夏至の雨。俺は、雨に打たれて歩く。心の中で、あの祈りの言葉を唱えながら。


『…そうですか! あの謎のストリートアーティスト・DDディーディーの作品が!』


 不意に上空から声が響き、俺の意識を外へと引っ張り出した。見上げると、頭上のビルボード映像で、キャスターが中継先に語りかけている。


『はい。こちらがDDの、この国初の作品です。少女の絵ですが、なぜか、随分凸凹のある壁に描かれているんですよね』

 そんな声とともに切り替わった映像が、街を照らす。口がぽかんと開いた。


「…キャンディ?」

 忘れもしない面影が、そこにあった。柔らかな色で彩られて。


『すてき! 作品名は? あります?』

『…ええと、あ! あります。雨の後の虹、と―』



『だいじょうぶよ、心配ない。だって、やまない雨はないんだから―』

『あたしたちって、運がいい!』


 キャンディの声が不意に脳裏に蘇り、心の中に波紋のように広がっていった。

 …ああそうだ。俺は、運がよかった。だって、キャンディに出会えた。あの路地裏で野垂れ死にしないで、あの日々を過ごすことができた。そして今、こうして、ここに生きている。


 雨が、見上げる俺の顔を濡らした。俺の目からも、熱い雨が流れ出す。けれども、俺は確信した。この雨はいつか上がる。きっと、必ず。


 この国には、いや、世界には、今もなお大勢の“キャンディ”がいる。キャンディは助けられなかったけど、この先、たくさんの“キャンディ”を助けることができるはずだ。そのための力が欲しい。強くなりたい。

 いつの日か、キャンディ。俺は、いつか俺は、間に合いたいんだ。



 雲が切れて、彼方に一筋の光が見えた。




 FiN

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キャンディ はがね @ukki_392

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