第4話 悪しきを祓う光となりて
「桐山君ってものすごい陽の
桐山は言われた言葉の意味をすぐには理解することが出来なかった。手招きされたので、恐る恐る近づいていくが、そっちには影の化け物がいる。
「陽……?」
「はい。」
頷くと、朝陰は後ろにいた影の化け物を振り返る。
「悪霊は陰の気を纏っています。そして、大体の神様は陽の気を纏っています。じゃあ人間は?人間はどっちの気を纏っていると思いますか?」
「え、陽かな?」
だって、さっき陽の気纏ってるのかって言われたし。いや、待てよ。聞かれたってことは陽じゃない場合もあるってことだ。
「正解は両方です。ほとんどの人は感情によって纏う気が陰にも陽にも変化します。だからこそ、霊は人間を恐怖させて陰の気を纏わせて食べようとする。自分の纏っている気と反対の気に触れると拒絶反応が出てしまうので。」
ホラー映画などで、何で人間に一気に襲い掛かって食べたりせずに徐々に追い詰めていくんだろうという疑問は持っていたが、まさか本当に意味があるとは思わなかった。
「ん、あれ……ほとんどの人は?」
「はい。纏う気が変わらない人もいます。例えば僕とか。僕が悪霊たちに狙われやすいのは常に強力な陰の気を纏っているからです。」
悪霊はより強い呪力を求めて、人を食べる。そして、食べやすいのは自分と同じ属性の気を纏っているもの。
「そして僕は桐山君が陽の気から変動しないタイプの人だと思うんです。」
凛とした表情で、朝陰は桐山の瞳をじっと見つめた。
「なんでそんなことわかるんだよ……?」
「だって、さっきからちっとも霊が寄り付いてませんし。一番無防備なのに。」
朝陰の視線を追って、影の化け物たちを見る。確かに、俺が朝陰の近くに来てから勢いが弱まったというか、警戒が強まったというか、今にも襲い掛かってきそうな様子はなくなっていた。
「ほんとだ……でもほんとに俺が?」
ほんとに俺が陽の気を纏っているお陰で、悪霊たちを牽制することが出来ているのだろうか。今まで出来ることがなくて見ていることしか出来なかったから、いきなりそんなことを言われるとさながら、自分がまるで勇者に選ばれたような心持ちになってしまう。
「僕も、君からは陽の気しか感じたことがないので。あ、陰キャとか陽キャとかとは関係ないですよ。もしそうだったら、八代さんが陽の気を纏ってるのはおかしいですからね。」
「今、なんて言った?」
少し離れたところで、影の化け物を相手取っている八代がすごい形相で振り返る。
「いやぁだって、八代さん間違っても陽キャではないでしょう。」
「うるさいわね……。あんただって、転校してきてから友達出来てないくせに!」
「僕のは友達を作れないんじゃなくて作らないだけ、ですからあなたとは違いますよ。」
二人とも言い合いながら、悪霊を撃退してるんだから器用なものだ。
「まぁ、真の陽キャ様には敵いませんけどね。」
朝陰はそう言って桐山を見て、軽薄な笑みを浮かべる。確かに二人とも、友達と話しているところを見たことがないが、朝陰はともかく、八代が陽キャとか陰キャを気にするような人だとは思わなかった。もっとこう、私は馴れ合わないから友達なんていらないわ、とかすまして言うもんだとばかり思っていた。友達いないこと意外と気にしてたんだ……。
「でも私も朝陰の意見には同意。塩も足りないし道具もそろってない状態では、桐山の不確実な力にも縋りたいところよ。」
黒い影のような悪霊の腕が、八代に向かって伸びる。しかし、彼女は落ち着いていた。慌てず、手に持っていた塩を投げつけるように振りかける。
「ヴゥアアアア!!」
苦しみの声と共に消滅する影の怪物。それを見て、八代はう~ん、と首を傾けた。
「下手なかけ方で塩、無駄にしちゃったかも。」
「ちょっと塩少ないんですから慎重にやってくださいね。」
「持ってきたの私なんだけどね。」
八代は軽口を叩く朝陰を軽く睨んでから、森の中に落ちていた太い木の棒を拾って、桐山に手渡した。
「これで殴ってみましょう。」
「何を!?」
「もちろん霊を。」
「嘘ぉ……?そんな簡単に祓えるもんなの?」
木の棒で祓えたらそれこそ、ご利益ある神社の塩とかいらないじゃんか!
「私だってね、木の棒で祓えたらそうしたいところなの。でも呪力には使う相性とかいろいろめんどくさいものがあるわけ。素手でも祓えるとんでもない人もいるしね。さっき、あなたの触った木の棒で朝陰が祓えていたし、案外出来るんじゃない?」
ほんとかなぁ。神社の娘の八代とか、呪われているらしい朝陰なんかに除霊が出来るって言われたらまぁ、信じられるかもしれないけど、少しだけ人より霊感が強いだけの俺にほんとに除霊なんて出来るのだろうか。それも落ちてた棒きれで。まるで勇者みたいな展開だけど、もう少しかっこいい武器がよかったな。
「そんなに眺めても、木の棒は勇者の剣には変わらないよ?」
「頭の中読めるの?」
ぎょっとして言うと、朝陰はくつくつと笑った。
「そこまで人間辞めてませんよ。」
「ほら、桐山君。やってみてください。」
促されて、太い木の棒を両手で握る。少し遠くで蠢いている影の怪物を桐山はまっすぐと
「耐えるのよ!」
厳しい声が響いて、桐山は棒から手を離しそうになるのをこらえて、思い切り影の怪物の体へと押し込んだ。強く外にはじき返される。手を離すな。押し込め。手を離せば最後、反動で吹っ飛ばされるような予感がした。
朝陰君は呪われている! 詩村巴瑠 @utamura51
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