俺も裏で


 バス停に男が二人立っていた。雨の中、二人は凍えそうな体を揺らしながら、狭苦しいバス停のトタン屋根の下で次のバスを待っていた。一人はスーツの男で仕事終わりのような様相をしていた。もうひとりは血色の良い青年で雨をつまらなそうに眺めていた。

 一つ前のバスを出発直後に逃した彼らは、次のバスがあるのに安心していた。しかしながら、それと同時に暇を持て余していた。青年はコインを親指の上に置いては跳ね上げ、空中で掴むのを繰り返していた。スーツの男は金属音が耳に響いて、顔を不愉快に歪めていた。

 彼は青年に「やめろ」と一言言うことも考えたが、若いのにそう言うのも無粋だと思って一案を講じた。


「なあ、君、コイントスで勝負をしないか? ただ待っているんじゃ、退屈でね」

「面白そうですね。わかりましたよ、じゃあ裏で」

「よし来た、じゃあ――」


 そこで、スーツの男はもう一つ思い浮かんだ。


「――俺も裏で」


 青年はそれを奇妙に思った。何故なら、コイントスというのは裏表のどちらかを背反的に選んで賭けるものではないかと思ったからだ。思ったものの、青年の親指の上にはコインが既に載せられていて、勢いでコインは宙を舞っていたために文句を言うことは出来なかった。

 そして、余計なことを考えていたせいでコインは地面に落ちてしまった。コインは表を向いていた。

 世界は歪み始めた。全てが溶けるように流れていき、雨も何もかも関係なくなってしまった。そこで二人は気づいた。コイントスで表が出た時の動作が未定義であったことによって世界がバグって崩壊してしまったのだと。


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越境する異世界語 Fafs F. Sashimi @Fafs_falira

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