私の大好きな人

 私は、おじいちゃんが大好きだった。

 遊びに行ってはかくれんぼしてくれたり、いろんな事を教えてくれたり。おじいちゃんの言うことは難しかったけど、いつもしていた会話だけは覚えている。


『のぞみ、君は生まれ変わったら何になりたい?』

『わたし? うーん…ペンギン!』

『ペンギン? それはどうして』

『だって、可愛いから! あと、海を自由に泳いでみたい!』

『ははは、なるほどなあ』


 おじいちゃんは、私の話を嫌がらずに聞いてくれた。会うたび会うたびに変わる、私の生まれ変わったらなりたいモノにだって、笑いながら聞いてくれていた。

 私が「パトカーになりたい!」なんて言ったこともあったっけ。大人になってしまった私の記憶力では、その時のおじいちゃんの表情は忘れてしまったけど、きっと苦笑いだったに違いない。


『ねーねー、おじいちゃんは?』

『私かい? 私は……そうだな、猫かな』

『えーおじいちゃん猫ー? あはは、おもしろーい!』

『そんなにおもしろいか…?』


 私はおじいちゃんの顔と猫の姿を重ね合わせて、爆笑してたっけ。

 おじいちゃんの困惑した声は、まだ思い出せるほどに印象的だった。


『ねえ、どうして?』

『何故って、のぞみは猫好きだろう?』

『うん!』

『なら、もしかしたら将来一緒に暮らせるかもしれないじゃないか』

『なにそれー!』


 おじいちゃんは、私のことが好きだったのかもしれない。このことを思い出すたび、私はちょっぴりだけ照れてしまいそうになる。

 ちなみに、私の猫好きは昔から一切変わっていない。それに、今は確かに猫をうちで飼っているけど……まさか、ね。


望美のぞみー! そろそろ出番よー!」

「あ、はーい! 今行きます!」


 私は、おじいちゃんが大好きだった。おじいちゃんがいたから、今の私がいるのかもしれない。

 私の一番好きな人は、紛れもない、私自身だ!



   ▼



「のぞみ」

「なーに? おじいちゃん」

「もし生まれ変わったら……生まれ変われたら、のぞみになって欲しいものがあるんだ」

「なってほしいもの?」

「それはだよ。生まれ変わったとしても、また自分になりたいと言える人間になりなさい」

「……? はーい!」

「偉いな、のぞみは。……さて、何をして遊ぼうか?」

「えっとね……じゃあ、かくれんぼ! おじいちゃんが鬼!」

「やれやれ、また鬼か……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

MIRROR チョコチーノ @choco238

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ