第5話
この世界の人種は二種類に分けられる。人族と魔族だ。人族は、前世で言うところの人間で、僕が生まれ変わったのも人族だ。一方、魔族は多種多様な姿をしていて人族にはない角や尻尾と鱗や翼を持っているものが多い。
現在、人族と魔族は争っている。具体的に言うと、僕が住んでる『アニマール大陸』の『ザイライ王国』と、『ビスト大陸』の『ガイライ魔国』が戦争しているということだ。今は拮抗状態だけど、魔族が我が国の町に入り込んでいることがある、目の前のように。
「お前たち、魔族だったのか。何が目的だ」
「はあ、バッカじゃねえの!? 敵の目の前で目的をペラペラしゃべる奴がいるもんか!」
「それもそうだね。でも、何の理由があっても女の子を襲うことは許せない! ついでに剣士の男の子も!」
遠くで「俺も!?」という叫びが聞こえるけど、そんなこと気にしてる場合じゃない。前言撤回、もう手加減なしだ。もう二度とこんなことできないように懲らしめてやる。
「だったら何だ! 貴様を倒してあいつらを始末してやるまでだ。野郎ども、本気でいくぞ!」
「「「「おおっ!!」」」」
ボオオオオオオッ!!
魔族達が口から炎を放ってきた。魔族特有の能力だな。結構な熱量を持っているが、僕には効かないのだ。暑さに耐えながら炎の中を進んでいってやる!
「うおおおおおおお!!」
(馬鹿な! 俺達の炎の中に突っ込んできやがった!)
(しかも、早い! 効いてないのか!?)
(耐え抜いてんのか!? 正気じゃねえぞ!)
(ば、化け物かよ!? 人間の気配しかしないのに!)
(ま、魔王様にご報告しなければ……!)
魔族達の前にまで来た。ここでとどめだ!
「イヌマン・メガトンパンチ5連発!! うおおおおおおお!!」
ボガガガガガッ!!
「「「「「ぐああああああああ!!」」」」」
魔族達は大ダメージを受けただけでなく、メガトンパンチの衝撃で空のかなたにまで飛んでいってしまった。あの先はビスト大陸があるから、運が良ければ故郷につくだろう。運が良ければだけどね。
「ふふっ、イヌマンの勝利だ!」
僕はガッツポーズをする。これをすると勝利を実感するからね。おや、剣士の人たちが駆け寄ってきた。
「あ、あの、改めてお礼を言います、本当にありがとうございます!」
「おかげさまで、命拾いしました。そ、その、まさか、魔族に出くわすなんて」
「危ないところを助けていただき、ありがとうございます。なんとお礼をすればいいのか……」
「お礼など結構。見返りを求めるために戦ったわけではありません。このイヌマンの正義が彼らを許さなかっただけです。だから戦った、それだけのこと」
その通り。見返りを求めれば正義とは言えない。ましてや僕とそんなに変わらない子たちに求めるわけにはいかないのだ。
「あなたは一体何者なんですか? そんな恰好で犬みたいな仮面をつけて戦うなんて、どうして?」
「防具をろくに身につけないで炎の中に突撃? 何かの魔法か能力で防いでいるんですかい?」
「二人とも、そんなことはいいではありませんか。助けてくださった方に一方的に質問攻め何て失礼ですよ」
「そ、そうだね。失礼しました」
「す、すいません」
質問は気にしていない。答えるつもりなんてなかったからね。正体をばらすわけにはいかないし。
「そんなことより町まで送っていきましょうか? 見たところ馬車が壊れているようですしね」
「本当ですか! 助かります!」
「ほっ……。不幸中の幸いですな」
「何から何まで助かります」
町には僕自身にも用がある。採取した薬草をギルドに届けないといけないからだ。まあ、それ以上に彼らを放っておくわけにはいかないからね。
町に着いた。もういいだろう。彼らとはここでお別れだ。
「イヌマン・インビジブル(ボソッ)」
「「「あれ? イヌマンさんが消えた!! どうして!?」」」
小声で透明になる技、というか能力を使う。これで彼らから僕は見えなくなった。これで僕も家に帰れる。彼らはどうしてもお礼をしようとして太太だけど、正体がバレる可能性があるから受け取れない。ごめんね。
僕は無事に家に帰りついた。誰も見る人がいないことを確認して、まず変身を解いて元の姿に戻ってからインビジブルを解除する。この順番も正体がバレないようにするためだ。
「ふい~、今日も頑張ったぞ」
ベッドで少し一休みした後、一般の冒険者シーロとしてギルドに出向こう。これが僕の日常のサイクル。普段は冒険者、ある時はヒーロー、これが僕の日常だ。叶えた夢なのだ。これからも続けていく。愛と平和のために、僕の夢をかなえ続けるために。
「……ああっ!! しまった、薬草を置いてきちゃった!!」
たまにこんなドジもするけどね。
【短編】僕は『イヌマン』!! ~犬から人に転生した少年は世界一ダサいヒーローになって戦う!?~ mimiaizu @mimiaizu
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