第5話

 軍議は荒れた。終いには「制圧任務失敗の被害が大きすぎるからと援軍としてきた騎士団に正確な情報をあえて伝えなかったな!」や「駆けつけはイイが一戦しただけで敗北宣言する無能が!」と罵り合うまでになってしまい…其々の副長達が諌める場面にも発展した。


 そこまでして出た結論は帝都に報せ指示を待つという事に収まった。早速、西市街区に設置されたポータルゲートを潜り帝都へと報告を済ませる。


 想定外の被害報告に上層部も自体を深刻に捉えたようだ。明日まで待てとだけ告げられ待機させられる。


 オビロン王国攻めは先に派遣されていた部隊、第3騎士団は撤収となり。新たに増強部隊を送ることとなった。


「アムス・ベオフィオルドよ。第3騎士団副団長の任を解く!これからはルシーク将軍直属の元で特務騎士として動き、それに伴い新たな部隊の編成を行い件の勇者対策を任とする」


 団長等と共に控えの間にて告げられた言はアムスにとって寝耳に水であった。(何故自分がその様な任に!?)内心思うも口上は出来ない。


 部隊編成には帝都にいる兵を勧誘し速やかに行動せよと言われ。控えの間を出た。


 団長からは新たな任に精を出せと言われたが…さてどうしたものか。とにかく優秀な人材を揃えなくてはあの子供にどう対応したものか迷ってしまう。


 その後、ルシーク将軍に面会した。顔の左目側に縦に走る大きな傷跡があり、かなり圧迫感を感じさせ、帝国では珍しい赤髪をオールバックに纏めている男性であった。


「アムス・ベオフィオルドです。今後お世話になります」


「うむ、話は聞いている。新たな部隊を創設するのだったな、任務も聞いている。腕の立つモノを集めるがいい」


「はっ!出来る限り早急に編成してみせます」


「期待している」


 こうして帝国本土で部隊編成を行うこととなった。

 さて部隊編成だ。まずは志願者を募ってみた。幾ばくか集まった者達に会ってみたが…勇者と呼ばれる者の存在も知らず興味本位や己が見えていない力自慢の者ばかり。コレじゃない、コレでは駄目だ。


 帝国には士官していないが名を馳せている武人達もいる。(そちらをあたるのが良さそうか…)そう思案する。


 確か帝都の北東にあるエピカラースという山に凄腕の弓師がいるというのを記憶から探り出す。


(名は……テ、テオ-……そうだ『鷹の目』テオドラ!ふむ、その腕前は轟くしな、誘ってみるか)呼付けるのではなく直接会いに行ってみようと、ルシーク将軍に許可を求めに行った。


 そして現在、目的の山の麓にある村から山に住んでいるとの情報を得向かっていた。供回りとしてついて来た兵士達は村に残してきた。「お一人では危険です!」と言われたが異名持ちの人物がいるところだ、危ないようなモノは出るまい。


 騎乗したままでは進むのがきつくなり轡を引いて歩く。道は細々とだがあるのだが乗馬した高さでは木の枝が体に当たるようになって来た。敢えてそうしているのだろう…。


 そうして進むこと一時間と半時程過ぎた頃「止まれ!…何者だ?山に何の用だ!」と上の方から声聞こえた。(女性の声?木の上か!)声のした方を見ると僅かだが気配を感じ位置を特定する。この距離で尚気配を感じ取り難いとは恐れ入った技量だ。


「自分はアムス・ベオフィオルドという者だ!山に住むというテオドラ殿にお目通りしたく此処に来た!貴女がテオドラ殿であろうか?」


「あたしはテオドラではない。父に何用だ?」


(父?テオドラの娘なのだろう。村での情報では聞かなかったな)そう思いつつ「自分と共に戦って欲しい者がいる!鷹の目と呼ばれるテオドラ殿ならば申し分ない働きをしてくれるだろう。どうか自分に力を貸して欲しい!」


 それにやや間があってから「無理だ!」と返される。


「無理?どうか直接会って話を聞いて欲しいのだ!」


「だから無理だと言っている!……父は死んだ」


「なっ何!? テオドラ殿は亡くなったのか………ならせめて墓前で冥福を祈らせてくれ…」


 そう言うと声の主が木から飛び降りてきた。日焼けし褐色した肌、左胸を補強したレザーアーマーを身に着け、左手だけ肘くらいまでの革手袋、そして右目に眼帯という出で立ちの女性の姿であった。


「…付いて来い」それだけ言うと道を進み始める。


「すまない。名を聞かせては貰えないだろうか?」


「…ナイア」


 沈黙が続く、そして開けた場所に出ると意外としっかりとした家が建っていた。その脇にある大きめの石が乗せられただけの墓標を前にする。


 瞑目して祈り呟く「惜しい人を亡くした…得がたい人物であったであろうに…」


「なぁあんた、都の人間だろ。言葉遣いや服装でなんとなくわかる。あたいで良かったら手を貸そうか…?」


「ナイア殿が?」


「ナイアで構わないよ。父を慕って来たんだ、力を貸して欲しいんだろ?」


「う、うむ。それはそうなのだが…」


「父の力は継承している!」そう言うと左手で右目を指して見せ「それに…山に一人というのも侘しいしな…」と呟くのだった。


 ナイアを加えた面子で帝都に戻る途中でダークエルフの里に寄って行く。奇妙に曲がりくねった木々を生やす森、闇の呪いのせいとも言われあまり人が近づかない地だ。


 他の土地ではダークエルフを忌避しているようだが帝国では平等だ。だが彼らはあまり里からでないし、こちらから接触しようとする者達も希だ。


「帝都の兵士等が我らが里に何用だ?」まだ若そうに見えるダークエルフの男性から問われる。里の入口複数の男たちが集まってきていた。


「誰か自分と共に戦ってくれる者を探している。ダークエルフの使う呪術の力を借りたい」


「戦うだと?何とだ?」


「今帝国は領土拡大を目指し大陸に攻め込んでいる」


「ああ、それは聞いている」


「だが大陸に厄介な存在がいてな…向こうでは勇者と呼ばれている」


「ほぅ」と興味を惹かれたような顔をする。


「わかった、長老へ面通ししてやろう」


「ありがたい」


 そうして大きめの建物へと案内され部屋に通された。


 部屋は大きいが書斎のような作りをしていた。そこには老いているとは言えないような壮年の男がいた。


「要件は聞いた。今のところ帝国の統治には問題ないしダークエルフ族として力を貸すのは吝かではないが…その勇者という者の力を知りたい」


 アムスは自分の知っている限りのことを話して聞かせた。


「ふむ…不思議な輝く剣に見えない障壁か…面白い!恐らくそれだけではあるまい…そのような年の子にそこまで戦う力があるとは思えんしな。それでだ、勇者とやらを討ち取った暁にはその者の持つ魔法具を幾ばくか譲渡して欲しい」そう言うと「ルグドゥルを呼べ」と控えていた者に告げた。


 やって来た者はまだ青年と呼べるくらいの見た目でエルフらしい線の細い男であった。切れ長の眼光鋭くこちらを一瞥すると「長老様、お呼びでしょうか」と澄ました態度で問う。


「うむ、この者らは帝都からの使者だ。我らの力を乞うておる。ここは一つ里で有数の実力者であるお前に頼みたくてな」


「アムス・ベルフィオルドだ。よろしく頼みたい」とアムス。


「ルグドゥル・イーハーベン・ウルクライストだ。ルグドゥルでいい。長老様の命だ…我が力存分に見せてやろうではないか」


 その他にダークエルフの男たち20名程が加わり、帝都を目指すのだった。


 帰還して留守にしていた間の戦況の記録を見ていると面会を求める者がいた。会ってみると顔左半分と右腕に大きな火傷の跡がある巨躯のゴブリンであった。

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騎士と勇者の戦記譚 海月 @pekopokopon

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