第16話


「は、初めまして…」


鈴木さんを前にし、多少のビビりを持ちながら挨拶をする光。


「え、クラスメイトなのに、何急に改まってんの?ウけるんだけど」


「ひえっ」


あまりの返答に光は、おののく。


光の仇をとるため俺も口を開いた。


「あの…なんでバイトしてるの?」


根本的な理由を聞いてみる。


「え、ま、まあ、服とか化粧品とかアクセとかにつかうためかな」


「じゃ、じゃあさ、う、うちの高校ってバイト禁止だった気するんだけどやばくね?」


元気を取り戻したのか、再び会話に参戦する光。


「は?別にバレなきゃよくない?なんか文句ある?」


「な、ないです!すみません!」


鈴木さんの圧力に押され、またもや光は何も言えなくなってしまう。光の頑張りをカバーするため俺も鈴木さんの言葉の刃覚悟で話す。


「で、でもさ、やっぱ校則とかは、守ったほうがいいと思うんだけど」


「うう、確かに、そうだけど…」


「え、わ、わかってくれたの?」


思っていた反応とあまりにも違うため驚く。


「う、うん、で、でも後、す、少しなの」


「ん?どういうこと?」


「い、いやなんでもない…」


何か高い服などを買うのだろうか。


だが、そんなことよりも俺は、さっきから違和感を覚えていた。その違和感を払拭するべく隣で意気消沈し、今にも死にそうな光を肩で起こす。


前の鈴木さんに聞こえないよう小声で話した。


「おい、なんか喋りかけろ」


「は?俺次何か言われたら生きていけないぞ?」


「ああ、頼む」


「ええ、分かったよ」


「何こそこそ喋ってんのよ」


「え、い、いや、なんでもないよ」


俺は、笑ってごまかす。


そして、光は意を決して鈴木さんに話しかけた。


「で、でもよ、お、俺が先生に喋りかけることもできるんだぜ?」


「は?何言ってんの、証拠も何も無いでしょ。黙れよ、メガネ」


「ぐはっ」

名前ではなく、光のトレードマークとも言えるメガネと呼ばれる始末。光のHPゲージは赤色になっている。


それをよそに、俺は、わかってしまった。さっきから感じている違和感を。


「俺も先生に喋ることできるんだよな」


サラッと言ってみる。


「ご、ごめんなさい、滝原くん、い、言わないで」


まるで、弱った子猫のようになる鈴木さん。


そう、そうなのだ。まさにこれである。さっきからの違和感、それは、




明らかに、俺と光に対する扱いの差が酷いということだ。


光は、何か言う度に、鈴木さんの言葉の暴力にやられているが、俺は、無傷。というか、理由は、分からないが、俺が優位に立てている。


なんでだ…。


そんな中、困惑している俺に、鈴木さんが話しかける。


「まあ、滝原くんなら優しいし、言わないでくれるよねっ。あ、そんなことより、連絡先交換しない?!前から、喋ってみたかったんだよね」


「え、きゅ、急だな」


「いいでしょ、いいでしょ!ほらこれ、私の!」


そう言いながら、連絡先を読み取るQRコードを見せてくる。


「え、ああ…」

俺は、流されるまま鈴木さんのQRコードを読み取っていく。読み取ると、それを確認したのか俺の方を向き、


「じゃ、ウチ戻らないといけないから、またねっ」


「ん、ああ」


そう言って、彼女は去っていった。


思わぬ急展開に置いていかれる俺達。


「おい、起きろ、鈴木さんもう行ったから」


隣で魂が抜けている光を起こす。


「く、な、なぜ、こんなにも世の中は不平等なんだ」


パンケーキをたべている時の光はどこにいったのだろうか。今や、握った秘密も鈴木さんの圧力に押され、尚且つ証拠がないだのなんだの言われ、価値が無くなったとでも思っているのだろう。


別に先生に報告したら、カースト関係なくそれは制裁が下るし、証拠なんて別の日に撮れば済む話だ。


光は、ただ単に優しすぎるだけなのだ。


甘いぞ光。


俺は、優しくとも何ともない。鈴木さんは、加藤さんを脅したクズだ。それなりに罰は与えてやる。


「俺もよくわかんないけど、とりあえず帰ろうぜ」


俺は、スマホを見ながら世の中に不満を持つ光にそう言う。


「ああ、今日は、帰ったら、ストレス発散するために、ギャルゲ攻略するぜ」


「おう、がんば」









俺が見ているスマホの画面には、バイトの制服姿で働く鈴木さんが写っていた。

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気になっていた子から嘘告されたので俺はその子を嫌いになりました。 白海 時雨 @Sirasuk

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