第33話

「陛下、申し訳ございませんが」


 従者が主人に伝えたことは街道の事故についてだった。

 もともと山間の狭い道。そこで起きたちょっとした崩落事故とそれを避けようとした荷馬車の横転による多重事故。人的被害は大きくなくけが人はいるが死者はでていない模様。だが狭い道なので復旧には時間がかかるとのこと。

 首都への手紙については馬なので細く古い道を走ればいいが、陛下を乗せて送り出す馬車となるとほかに道がない。


「どうするかな」

「どちらにしろ山の中を走ることになるんでしょう。馬を貸してもらって、その道を走るのはどうですか」

「こういった場合に回り道できるように残してるだけで、最低限の整備しかされてない道ですから、土地勘がない方にはお勧めはできませんね」


 魔王は翼があるのでこのまま帰るということもできるが今いる正確な場所もわからないのにそのようなことはしたくない。できれば妙な騒ぎにならないように、わかる場所まで陸路で帰るほうがいいだろう。

 王様は馬の遠乗りなどできればしたくない。魔法使いは、そもそも年だ。


「反対側になりますが、闇の国との国境の方へ降りてみてはいかがですか」


 その話を隣で聞いていた娘の助言。この国で戦時中という雰囲気を残すのは、方角を指し示す際に「闇の国との国境」という言葉を使うことくらい。


 王様は頭の中で地図を描く。

 首都の王城、そこから山を越え二日か三日はかかるであろう場所に自分たち。そこから王城とは反対側に進み、山から下りてから半日ほど進むと規模としては中級の都市がある。ここからだと二日ほどか。

 あそこを統治する貴族は遠くから来て首都の社交界によく顔を出す。出世欲丸出しなのだが、統治手腕は全くなく従者と民間人にまかせっきり。

 その割に土地を捨てて首都に構えて本格的に出世を狙う、という覚悟はないらしい。あれで出世はできない。雇うなら従者を雇う。


「あの、都市の方まで下りていくのか」

「いえ、あの町との間、そう(そこで正確な場所をいう娘)に闇の国との国境へ兵を送るための道が首都から整備されています。軍や役人が優先ですが平時であれば民間人もつかえるということで、闇の国の商人たちはあの道を使ってくると言っておりました」


 この国は闇の国との戦時中だ。

 といっても闇の国の商人たちが軍事のための道を使って文化交流、経済交流を建前に行商にくる状態。

 そりゃ停戦という話にもなる。むしろ遅すぎたくらいだが、役人というのはそういものだ。


「あぁ、あの道か、こんなところを通ってたんだな」

 管理職であり権威ある魔法使いということで各地を回る魔法使いはなんとなくわかった。

 王様は頭の中で地図を描き

「あの辺なら、軍の駐屯所かなにかあったはずだが」

「えぇ、そこまで規模は大きくありませんが、何人かは常駐していたはずです。そうですね。陛下がよろしければそちらの駐屯所に送る手はずを整えましょう。とりあえず明日はわが城に」

と貴族とその娘、そして魔法使いと一緒にいろいろ算段する。

 そして魔王は、残りの晩飯を食べていた。

 土地勘もないのだ。それくらいしかやることがない

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勇者召喚しようとして魔王を召喚してしまいました〜ごめんなさい〜 飛騨牛・牛・牛太郎 @fjjpgtiwi

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