第32話

「ご主人様。ご報告がございます。よろしいですか」

「よかろう。少し席を離れますが」

 伝令の内容は王に関係あることだが、よく訓練された従者は直接王ではなく主人にそういった。

 主人に雇われている以上そちらを建てるのが筋。

 それを聞いて逃げるように部屋から出て行ったのはこの屋敷の主人。


「まぁ、娘の婚姻に熱を入れる貴族は多いですが、それが空回りする人も同じように多いですからね」

 場を取り繕うように魔法使いはそう言った。

「息子さんは浮かれた話はありませんかな」

「あっても言わないよ。そんな歳だ。遊びまわれとは言わないが、一つや二つあってもいいとは思うが」

「近所のおじさんたちの会話っぽい」

 魔王と王様の会話を聞いた魔王の正直な感想。

 貴族の娘は今さらこの二人が国で一番偉い人ととこの国の魔法使いで一番偉いお爺さんだということを思い出した。

「まぁ送り出す家としても監督ができないような土地にあまりにぼんくらは送らないもんだよ。醜聞やスキャンダルは家の恥になるからね」

「それでも新聞に書かれる位はあるわけでしょう」

 これは魔王の言葉。情報収取は欠かせない商売。

「ま、そうだ。でも顔を見てもわからないものはわからんからな。よくよく調べてみるしかないよ」

「田舎の小娘に判断しろ、とおっしゃるのは酷じゃありませんか」

 陛下の言葉についそう答える娘。

「しかし君の父親はあの状態だよ。君がしっかりしなきゃね」

 そう魔王は笑った。

 娘も自嘲するように合わせて笑う

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