第31話

 闇の国の婚礼、といってもモンスターの種族が複数ありそれぞれ別の文化があるので一概に言えないが、貴族階級や上流、もしくは上流階級にあこがれる連中になると往々にして本人の意思を無視した婚姻が行われる。

 上流階級にとって婚姻は政治的駆け引きの道具であり、縁を得て家を拡大、維持するためのアクションなのだ。


 とは言え一度も顔合わせをせずに結婚するといったここまで極端な話はめったにない。


「一度も顔合わせをしていないのですか、それはまた」

「そうでしょう」


 どう反応すべきか迷った魔王に対して、娘は食いつくように話した。


「しかしな、こういった話はなかなかないのだぞ。お前も貴族の娘であれば」

「それはわかります。わかるからこそ不満を述べているのです。紙と人のうわさの上で優秀な殿方といっても、その話が本当なのかわかったものじゃないでしょう」


 確かに、とは魔王様の心のうち。1‐0


「しかしな」

「それに人のうわさなど悪い部分を言わないものですし、本人も隠すでしょう。どうするんですか、ここに来た後に悪習、悪癖がわかったら」

「気軽に追い返すというわけにはいきませんな」


 貴族の結婚だもの。そこまで気軽に離縁というわけにはいかないよな。とは相槌を打った魔法使いの心のうち。2-0


「決まったことだぞ。わがままをいうな」

「そのようなお役人的思想で一人娘の結婚を決めないでもらいたいですね」


 その一言につい笑ってしまった王様。そして一言。


「貴殿は聡明な娘を持ったことを誇りに思うべきでしょうな」


 3-0。審判によるゲームセットの宣言。娘の勝利。

 勝ったからと言って娘が喜ぶわけではない。


「まったくもう」

「まぁ祈るしかありませんよ。そうそう悪い人は来ないでしょうよ」

「あなたも無責任すぎますよ」


 魔王のいい加減な慰めにも怒る。


「あ、はい。すいません」


 平謝りする魔王。

 そこに入ってくる従者一人。

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